政治・経済、都市開発・不動産、再開発等に関係するプロフェッショナル集団。主に東京の不動産についてフィールドワークを重ねているが、再開発事業については全国各地の動きをウォッチしている。さらにアジア・欧米の状況についても明るいメンバーも参画している。
この記事でわかること
1. 相談は5年で10倍、7割が70歳以上
2. リースバックは「売って、借りて、住む」
3. 日本では「建物」があっという間にゼロ評価になる
4. リバースモーゲージは「借りて、死後に精算」
5. 共通の敵は「長生き」――どちらも老いに弱い
6. 結局、どちらが自分に合うのか
相談は5年で10倍、7割が70歳以上
自宅に住み続けたまま、まとまったお金をつくる。その手段としてよく並べて語られるのが、リースバックとリバースモーゲージだ。名前も響きも似ているうえ、どちらも「持ち家の高齢者が老後資金を得る方法」として紹介される。だが、この2つは中身がまるで違う。一方は自宅を売る契約で、もう一方は自宅を担保に借りる契約である。ここを取り違えると、時として老後の住まいそのものを失いかねない。
まず、いま何が起きているかを押さえておきたい。
住宅のリースバックに関する相談が、全国の消費生活センターに急増している。国民生活センターの集計では、2019年度に24件だった相談が、2020年度56件、2021年度85件、2022年度129件、2023年度234件、2024年度239件と、5年でおよそ10倍に膨らんだ。契約当事者の年代を見ると、80歳代が41.4%、70歳代が26.8%で、70歳以上が全体の約7割を占める。
国民生活センターは2025年5月、「強引に勧められる住宅のリースバック契約にご注意」と題した注意喚起を出している。寄せられた相談には、以下のようなものがあった。
「朝10時から夜10時過ぎまで勧誘され、仕方なくサインした」
「約6万円だった家賃が3年後に約11万円になり、払えず退去を求められた」
また、中には認知症の父が戸建てを400万円という相場からかけ離れた安値で売却していた、というケースもあった。
なぜ、この数年で急に増えたのか。背景には、リースバックがテレビCMで一気に知られるようになり、参入業者が膨らんだことがある。こうした家の活用法が広がれば、その裏で高齢者を狙う「押し買い」も増えるのは枚挙にいとまがない。
これらの手口はおおむね決まっている。突然の電話や訪問で「固定資産税も修繕費もいらなくなる」とメリットだけを並べ、長時間ねばって熟慮の機会を奪う。根負けして判断力の落ちた高齢者に狙いを定め、相場より大幅に安く買い叩き、そこに高めの家賃を乗せるというもの。
つまり、売却価格を他社と比べさせない、他者に相談させないのが、こうした商法の常套手段である。契約後に親族から「安すぎる」と指摘されて、初めて気づく。急増の正体は、市場の健全な拡大というより、ブームに便乗した勧誘の激化なのだ。
そして、こうしたことが起きる土台には、リースバックが「売却」契約だという一点がある。
リースバックは「売って、借りて、住む」
リースバックは、自宅を不動産業者などに売却し、その代金を受け取ったうえで、今度は借り手としてその家に住み続ける仕組みだ。売買と賃貸借を同時に結ぶ。所有権は買主に移り、あなたは家賃を払う入居者になる。
利点はわかりやすい。売却なのでまとまった現金が一度に入る。引っ越さずに済むうえ、固定資産税や修繕費といった持ち家の負担からは解放される。しかも、年齢や年収の審査が借入ほど厳しくないため、住宅ローンが組みにくい高齢者でも使いやすい。
問題は、売却である以上、家はもう自分のものではない。買主は投資として買っているから、売却価格は市場相場より低く抑えられがちで、そのぶん家賃には利回りが乗る。契約が期間の定まった定期借家だと、期間満了で更新を断られれば住み続けられない。家賃はあとから値上げされることもある。「そのままずっと住める」と言われても、それを無条件に保証する契約ではないのだ。しかも、悪いことにいったん売買が成立すると宅地建物取引業法上のクーリング・オフは効かず、後戻りには高額な違約金がついてくるということなのだ。
日本では「建物」があっという間にゼロ評価になる

しかし、リースバックやリバースモーゲージという方式が悪いとは言い切れない。両者に共通してのしかかる日本特有の事情があるからだ。有り体にいうと、日本の不動産評価は、建物の価値が驚くほど早く目減りするのだ。
木造住宅の法定耐用年数は22年(事業用)とされ、税務や査定の世界では、この年数をかけて建物の帳簿価値がゼロへ向かって落ちていく。実際、金融機関は木造の建物担保価値を築20年ほどでゼロと見なすことが多く、不動産会社の査定でも築25年前後で建物価格はほぼつかない。
むろん、築20年の家が住めなくなるわけではない。物理的にはあと20年、30年と住める。だが「評価」の世界では、家はほとんど土地の値段でしか見てもらえなくなる。欧米では手入れした中古住宅がむしろ値上がりすることも珍しくないのに、日本は「つくっては壊す」を前提に建物をすり減った消耗品として扱う。
この評価の癖が、リースバックとリバースモーゲージの両方に効いてくる。リースバックでは、建物にほとんど値がつかないぶん買い取り額が土地値中心に圧縮され、「思ったより安い」という一因になる。一方、リバースモーゲージでは、担保に取れるのが実質的に土地の価値だから、借りられる額もそこで頭打ちになる。自宅を「資産」として使おうとした瞬間、日本では建物の価値がほとんど当てにならないのた。そして、このことがリースバック、リバースモーゲージを使いづらいものにして、提示される金額が安くなる容易になっている。
リバースモーゲージは「借りて、死後に精算」
話が横道に逸れたが、リバースモーゲージのついても説明しよう。
リバースモーゲージは、そもそも自宅を手放さないしくみだ。つまり、自宅を担保に金融機関からお金を借り、存命中は利息だけ(あるいは無利息で元金据え置き)を払い、契約者が亡くなったあとに自宅を売却して元金を一括返済する。名前の「リバース(逆)」は、住宅ローンが月々返して残高が減っていくのに対し、こちらは借りて残高が増えていく――返し方が逆だ、という意味だ。そして、所有権は自分が持ったまま、住み続けられる。
代表格が、住宅金融支援機構が民間金融機関と提供する「リ・バース60」である。2024年度の実績を見ると、利用は1297戸、付保金額は207.9億円。申込者の平均年齢は69.5歳、平均年収は403万円で、職業は年金受給者が53.6%と半数を超える。平均融資額は約1667万円、月々の返済は平均4.2万円。使い道は注文住宅の建築やリフォームが多い。
ここで押さえておきたいのが「ノンリコース型」という選択肢だ。2024年度の利用の99.7%がこれを選んでいる。ノンリコースとは、契約者の死亡後に自宅を売っても借入残高に届かなかった場合、その不足分を相続人が負わなくてよい、という仕組みである。担保割れのリスクを子に回さずに済む。ただし利点にはコストが伴い、金利はやや高めに設定される。
とはいえ、リバースモーゲージにも死角はある。
担保は自宅そのものだから、地価が下がれば借りられる額は目減りする。変動金利型では、将来の金利上昇で利払いが膨らむ。存命中に配偶者へどう引き継ぐか、同居する家族がいる場合にどうなるか――契約前に詰めておくべき点は少なくない。
そして、都市部の高齢者にとって見過ごせないのが、マンションが使いにくいという点だ。
リバースモーゲージは「契約者の死後に担保を売って一括返済する」仕組みだから、金融機関は長い年月をかけて確実に売れて値の残る担保を欲しがる。ところがマンションは、建物価値の割合が大きく、管理・修繕の状態や築年数で資産性が大きくぶれる。土地の持ち分は名目上のもので、いざ売るときに戸建てほど値が読めない。だから多くの商品が担保を土地付きの戸建てに限り、マンションは「対象外」または「都心の一定価格以上に限る」といった厳しい条件をつける。「持ち家はあるのに、自分のマンションでは使えない」と、都市部でこの壁にぶつかる人は少なくない。いわば、建物がすぐゼロ評価になる日本の独特のものが、ここでも効いているわけだ。
共通の敵は「長生き」――どちらも老いに弱い

ここまで別々に見てきた2つには、じつは同じ弱点がある。
どちらも長生きするほど不利になるのだ。老後の安心のために選んだはずの契約が、想定より長く生きたとたんに生活を苦しくさせる原因にもなりうる。これは両者を貫く最大の落とし穴で、営業段階ではまず語られない。
リースバックの場合。売却で得たお金は、使えば減る。生活費に取り崩していけば、いずれ底をつく。ところが家賃は、住んでいる限りずっと発生する。売却金を使い切ったあとも、家賃の支払いは続く。
しかも、家賃の値上がりもある。実際、国民生活センターの事例では、売却金を生活費で使いきったあとに家賃が6万円から11万円へ上がり、退去を迫られた例もある。「入ってくるお金には限りがあり、出ていく家賃には限りがない」という構造そのものが、長生きした人を追い詰める。
リバースモーゲージの場合も同様だ。借入残高は毎年ふくらんでいくが、担保にできる自宅の評価には上限がある。長生きして融資限度額まで借り切ってしまえば、それ以上はもう借りられない。老後資金の柱にしていた蛇口が、いちばん助けが要る人生の最終盤で止まる。変動金利型なら、その間に金利が上がって利払いがが多くなり、その心配もつきまとう。90歳、95歳まで元気に生きること自体はめでたい。だが、この二つの契約は「そこまで長くは生きない」という暗黙の前提の上に立っている。
老後資金の設計で怖いのは、じつは早死にではなく長生きのほうだ。自宅を使った資金調達を考えるなら、「平均寿命で足りるか」ではなく「95歳まで生きても住まいと家計が保つか」で試算しておきたい。
結局、どちらが自分に合うのか

表のように2つを並べると、選び方の軸が見えてくる。
リースバックが向くのは、まとまった現金がいますぐ必要な人だ。高齢者施設の入居一時金、事業や借金の清算、建て替えの資金などだ。使途に締め切りがあり、所有権を手放してでも現金化を急ぐなら、売却と資金調達を一度に済ませられるリースバックは理にかなう方法だろう。
国民生活センターが紹介する健全な活用例も、施設入居までの短期間を定期借家でつなぐ、といった「出口の決まった」使い方だった。逆に「ずっとこの家に住み続けたい」人が、生活費の穴埋めのために安易に選ぶと、家賃で家計が回らなくなる。ここが最大の落とし穴である。
リバースモーゲージの向く人は、自宅に住み続けたまま、生活資金やリフォーム費を少しずつ確保したい人だ。持ち家を子に遺すつもりがなく、死後に売却して精算されても構わない――そう割り切れるなら、所有権を保ったまま資金を得られる利点は大きい。そして、相続人に負担を残したくないなら、ノンリコース型を軸に検討したい。
共通して言えるのは、「自宅を使った資金調達」は取り返しがつきにくい、という一点だ。売れば戻せず、借りれば残高は積み上がる。だからこそ、突然の電話や訪問に押されてその場で決めてはいけない。複数の事業者から条件を取り、家族に相談し、自宅を売る・貸す以外の選択肢――住み替え、通常の売却、不動産担保ローン――とも並べて比べたい。判断に迷えば、消費者ホットライン「188(いやや)」に一本かける手もある。
似た顔をした二つの契約は、老後の暮らしを支える道具にも、住まいを失う入口にもなる。分かれ目は、仕組みを正しく知り、自分の10年後から逆算して選べるかどうかにある。急ぐ話ほど、いったん立ち止まって確かめておきたいところだ。
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