不動産など資本市場の分析と世代会計、文化財保護に高い関心持ち、執筆活動を行っている。『不動産絶望未来』『2030年不動産の未来と最高の選び方・買い方を全部1冊にまとめてみた』(いずれも東洋経済新報社)などペンネーム・共著含め著書多数。
(著者連絡先)windomaezaki@yahoo.co.jp
図書館を地下に、テニスコートを地上に――。文京区の「竹早公園・小石川図書館一体整備計画」に疑問の声。子どもや区民の居場所をどう守るのか、公共性が問われている。
山下努2025/11/01

バブル経済前夜の1985年、村上龍は『テニスボーイの憂鬱』という欲望と享楽の時代を象徴する“テニス男”を描いた小説があった。それから40年、東京の中心にありながら、坂道と瀟洒な住宅街、学舎と歴史と文化が息づく文京区で、テニスコートか図書館と公園かをめぐって、住民と区との間でテニスならぬ賛否の“ラリー”が繰り広げられている。
事の起こりは2024年、文京区が旧竹早国民学校跡地にある小石川図書館、竹早テニスコート、竹早公園の3つの区営文教施設を一体的に整備する「竹早公園・小石川図書館一体的整備基本計画」の中間のまとめ案が2024年1月に公表されたことによる。
計画自体は、2019年6月に文京区立図書館の機能向上と老朽化施設の改修の検討を行う「文京区立図書館改修等に伴う機能向上検討委員会」が設置されたことから検討が始まった。
その後、区では「小石川図書館及び竹早公園一体的整備検討会」を設置し、公園、テニスコート、図書館などの各施設一体的に整備する検討を進めてきた。
そこで出てきた計画案は、これまで1面と4面に分離していたテニスコートを5面が並ぶように整備。一方、図書館のメインフロアは窓のない地下に押し込まれ、公園内で子どもたちが遊べる施設も減少しそうなかたちのものだった。
図書館、公園、テニスコートの3つの単位面積当たりの利用者は、テニスより図書館や子供のための公園の方が圧倒的に多いはず。しかも、テニスコートだけなら、文京区内には砂入り人工芝で整備された4面のテニスコートを備えた目白台運動公園もある。子どもたちや公園で過ごす区民が利用するスペースが狭くなり、テニスコートに広げられた印象を与える計画案だった。
小石川図書館は、1910年に開設した「東京市立小石川簡易図書館」が前身の長い歴史を持つ図書館。現在の建物は1965年築・鉄筋コンクリート造、地上4階・地下1階建て。
所蔵資料数は、一般図書が約14万点、児童書が約4万2000点、レコード約2万点、カセット約200点、CD約2万1000点、DVD約700点(HPより)と所蔵規模が大きめの図書館だ。また、視聴覚室にはテクニクスなどの往年のオーディオ機器が並ぶ。
しかし、新しく図書館が入る建物はこれまでの4階建ての高さ22mまで建築可能なのにもかかわらずなぜか2階建ての建物になっている。このことについては「テニスコートに影を落とさないためなのか」と一部の住民は訝る。
住民側がこの計画に対して不信感を抱くのには理由がある。
この計画案は、区が独自考えたのではなく、コンサルティング会社と業務委託契約を結び、2700万円以上の税金を投入してつくらせたものだった。さらにこれまで中心的にテニスコートを使ってきたテニスクラブの存在もある。
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山下努経済アナリスト
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