日本郵政が“不動産デベ”に変貌中、次々消える一等地にある郵便局

厳しい経営続く日本郵政。その起死回生の策が日本全国の一等地にある郵便局の土地の売却、再開発。それらは元は国民の財産で、中には文化的な価値が高いものも含まれ、いつの間にやら高級マンションに姿を変えて、新築マンションの平均価格を押し上げている。

山下努2024/08/09

日本郵政が“不動産デベ”に変貌中、次々消える一等地にある郵便局
  • 10月より郵便料金の値上げ、その一方で日本各地の一等地にある郵便局の売却、再開発が進む
  • 大手デベロッパーから熱い視線で見られている郵便局、日本郵政の社宅
  • 小泉郵政民営化がもたらした再開発がもたらしたもの

郵便料金値上げと不動産で赤字を解消

10月1日から郵便料金が値上げされる。
ハガキが現在の63円が85円に、84円、94円の封書(定形郵便)が110円に統一されるなどおおよそ30%高くなる。利用数の減少や物流コストの上昇というのが値上げの理由だ。

その一方で、日本郵政と傘下の日本郵便(JP)が不採算事業である郵便局の売却や再開発に余念がなく、その跡地にはマンションや商業ビルが次々と建設されている。
その象徴的な物件が麻布郵便局の跡地に建てられた日本一の超高級億ションでもある「麻布台ヒルズ(森JPタワー)である。
また、賃貸住宅の取得・提携では「JP noie」などのブランドで、小石川、目白、三田、恵比寿、広尾等、人気の住宅地に進出。文京区小石川、江東区木場、新宿、西早稲田などでも不動産事業に乗り出している。

新たなランドマークになった「麻布台ヒルズ」(上)/重厚な造りだった「麻布郵便局」

こうしたマンションや商業ビル建設ためにグループ内に日本郵政不動産やビル管理のJPビルマネジメント、住宅管理のJPプロパティーズなどを設立。検討されている開発(最終的に売却可能性も含む)物件は数多い。

実際、東京都内に限っただけでも麹町、九段、日本橋、京橋、芝、高輪、赤坂、外苑前、世田谷中町、中野など一等地に郵便局がその候補地とされている。
なかでも郵便事業の発祥地のひとつの銀座郵便局は、築地市場跡地の再開発で注目されている。さらに、郵便局以外でも、メルパルク東京(芝)や白金社宅などが日本郵政案件の目玉物件になりそうだ。
もちろん東京以外でも、札幌、横浜、名古屋、京都、神戸、松山、福岡、長崎、鹿児島などの拠点都市の大型物件が再開発される見込みだ。

さらに不動産開発だけでなく、杉並区や港区では、老人ホーム等高齢者施設を新規に取得。保育園、保育所も都内を中心に10カ所程度、取得している。加えて高齢者施設の再開発も進めようと台東区日暮里で底地の取得にも乗り出した。京都府では学研やベネッセ、ニチイ学館と協力して物流施設も手に入れている。
ここまでくるともはや、郵便会社ではなく、収益的には不動産デベロッパーというのがいまの日本郵政株式会社の実態なのである。

その広がりはマンションや福祉施設だけにとどまらない。
KITTE(キッテ/日本郵政グループの日本郵政不動産が大都市のターミナル駅前で展開する商業施設のブランド)は、商業中心の複合ビルで、東京、名古屋、博多の駅と直結。すでにオープンしている商業ビルは東京駅前のKITTE丸の内をはじめ、JPタワー名古屋、飯田橋グラン・ブルーム、札幌三井JPビル、JR、JP博多ビルなどが好調で、7月31日にはJR大阪駅と直結した「KITTE大阪/JPタワー大阪」が開業した。

1 2

この記事を書いた人

山下努

山下努経済アナリスト

元朝日新聞経済記者、英字新聞「ヘラルド・トリビューン朝日」記者。不動産など資本市場の分析と世代会計、文化財保護に高い関心持ち、執筆活動を行っている。『不動産絶望未来』(東洋経済新報社)などペンネーム・共著含め著書多数。

※このサイトは「事業再構築補助金」を活用しています