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文化遺産が失われる令和の再開発――郵便局が次々とマンション、商業施設に

いま、日本各地で再開発が進んでいる。老朽化したという理由で解体されるビルや、街並みの中には自然を育み、日本の近代化を今に伝えるものも多いのだが……。

内外不動産価値研究会2023/09/27

文化遺産が失われる令和の再開発――郵便局が次々とマンション、商業施設に
  • オフィス、マンション、商業施設にホテル……似たものばかりの開発
  • 日本の近代化のいまに伝える古い郵便局が姿を消している
  • 明治の鉄道と郵便は近代化を、令和の鉄道と郵便は再開発

見直し論の機運が高まる明治神宮外苑の再開発

東京・明治神宮の再開発の工事が3月に動き出してから6カ月が経ち、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)がこの再開発で文化的資産が危機に直面するとして、緊急要請「ヘリテージ・アラート」を公表。三井不動産などの事業者に計画の撤回を、都には環境影響評価(アセスメント)の再審議を求めたことから、再開発の再考の機運が高まっている。

そもそも明治神宮外苑は、1926年に明治天皇・昭憲皇太后の遺徳を永く後世に伝えるため国家事業として行われ、民間有志も参加し造成され、奉献されたもの。明治神宮は「国民の神社」で、記念施設は国民の寄付によって賄われるべき、という考えから、全道府県、外地、在外邦人などに割り当てられて集まった寄附金で造営された。いわば日本全国民からの寄附によってできたものだ。
その象徴的な存在である銀杏並木こそは、再開発で全面伐採はされない予定だが、樹木に致命傷となりかねない移植は一部で検討中だ。絵画館に近づくにつれより低いイチョウが植えられ、遠近法を用いて絵画館が遠方にあるように見えるよう工夫されるなど、工夫を凝らされており、明治神宮外苑には、大正から昭和初期の近代日本の建築技術などがさまざまに採り入れられた文化遺産的なものなのだ。
見直し論が高まっている明治神宮外苑だが、令和に入って、戦前に建設された文化遺産的な建造物が次々と解体され、オフィス、ホテル、マンション、商業施設への再開発が行われている。

ひっそりと姿を消す日本郵政の文化遺産的建造物

こうした建物の解体、新建築が進められているのが、かんぽ生命の不適切販売問題などで揺れ日本郵政グループでの持つ郵便局などの建物だ。

その1つが慶應大学に近い港区三田1丁目にあった旧逓信省東京簡易保険支局(前かんぽ生命保険東京サービスセンター)である。
2.6ヘクタールの広い敷地は2018年、建物ごと入札にかけられ、三井不動産レジデンシャルが落札。再開発には三菱地所と慶應義塾が加わり、超々高級マンションの「三田ガーデンヒルズ」へと変身した。

解体された旧逓信省東京簡易保険支局の建物は、日本建築学会が日本郵政や東京都、港区などに宛てた保存要望書によると、1929(昭和4)年、近代日本建築をリードし傑作を数多く残してきた旧逓信省営繕課が手掛けた建物で、日本の建築が古典様式からモダニズム建築へと移行する途上の建築作品だったという。古典主義を単純化した外観、アール・デコ的要素が強い内観などの特徴を有し、日本の建築家からも、ウイーンの類似作品より、「出来がよい」という声があったほど評価の高い建物だった。

その詳細を説明すると、西欧で新しく誕生したアール・デコに、新様式のディテールが西洋古典様式の建築に少しずつ加えられ、古典主義と新しい近代様式が折衷した建築のグループに属するとされるもの。その優秀なデザインのレベル、ずば抜けた完成度の高さから、昭和初期を代表する建築に数えられてきたという。
建物は直線を強調。装飾要素を単純化したファサードで、オーストリアの建築家、都市計画家のオットー・ワーグナーが設計したウイーンの郵便貯金局のホールを彷彿とさせるものだった。中に入ると階段部分が吹き抜けになっており、この建物の設計者の西洋近代建築の正確な理解の証左となっていた。

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都市開発・不動産、再開発等に関係するプロフェッショナル集団。主に東京の不動産についてフィールドワークを重ねているが、再開発事業については全国各地の動きをウォッチしている。さらにアジア・欧米の状況についても明るいメンバーも参画している。

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