文化遺産が失われる令和の再開発――郵便局が次々とマンション、商業施設に

いま、日本各地で再開発が進んでいる。老朽化したという理由で解体されるビルや、街並みの中には自然を育み、日本の近代化を今に伝えるものも多いのだが……。

内外不動産価値研究会2023/09/27

意匠を守りながら行われてきた改修・耐震工事

解体前の「旧逓信省東京簡易保険支局」

取り壊される前は事務庁舎として使われてきたため、1980年代に大規模改修が行われ、その後も、丁寧な復元工事によって、外壁の黄色タイル、軒の質感など意匠的価値が内外共にきわめて良好に維持されてきた。
さらに2001年ごろには耐震改修工事も実施されており、その際も当初の意匠に影響を及ぼさないように十分な配慮がなされ、意匠上の改変はほとんどなく、保存状態は建設当時の原形をとどめていた。
保存状態もよく、文化的な価値も高い建物だっただけに日本建築学会が保存要望を出していたが、かんぽ問題の最中に売却。日本郵政は850億円の譲渡益を得るのと引き換えに、近代の建築遺産が解体されてしまった。

建物正面/車寄せ/吹き抜けのホール

戦前のアール・デコ調のデザインの重厚感がある傑作建築物であるということで、開発したデベロッパーは「意匠の一部を残す」としたが、建設されるオフィスやマンションに対して高級感だけを上乗せする材料にされてしまった感は否めない。
この「三田ガーデンヒルズ」は2025年3月に竣工、26年1月下旬に入居が始まり、23年11月から第2期販売が開始される予定だ。


歴史的な建物を解体して再開発が行われるのは、この三田ばかりではない。三田のほど近くにあった麻布郵便局も森ビルが主導し、2023年11月に開業する「麻布台ヒルズ」でも文化財的価値の高い郵便局舎が姿を消している。
これは東京だけでなく、大阪でも大阪中央郵便局旧局舎は日本建築学会が「重要文化財の水準をはるかに超える価値がある」との見解が出された建物だったが、旧建物の一部を複合ビルに取り込む「なんちゃって保存活用」され解体された。

郵便事業の穴埋めは不動産開発で

郵政事業は民営化されたものの、郵便事業は赤字基調だ。そこで郵政グループが持つ駅前など建つ全国の郵便局が売却や再開発によって、収益性を高めようというわけ。
実際、日本郵政の社長に就任した増田寛也氏も「よい土地がいっぱいある。そこでの展開をもっと進めたい」と発言し、不動産開発に積極的だ。

具体的には、2025年度までの中期経営計画では不動産事業に対して5000億円を投資し、郵便局など全国20カ所超の自社物件を複合施設などに建て替えるとしている。そして、不動産事業を郵便、金融に次ぐ新たな収益の柱に育てるという。
その中にはこうした歴史的のある文化遺産的な建物もあり、一般的には知られることなくこっそりと次々と姿を消している。

ともに広がってきた鉄道網と郵便網の次のステップ

郵政グループの不動産を活用した再開発はほかにもあるが、注目が集まっているのがJRグループと共同事業である。
先に紹介した大阪中央郵便局旧局舎の再開発や、京都駅前でも、京都中央郵便局と隣接するJR系駐車場とのセット行われる再開発など。
広島駅南口の広島東郵便局の敷地に、広島駅南口計画としてビルを建設。こちらの計画は広島東郵便局を移転・解体した跡地に20階建て延床面積4.5万平方メートルのビルを竣工させた。

広島JPビルディング


 郵政は「KITTE」ブランドとして東京駅前や博多駅前(JRJP博多ビル)で商業施設を展開している。名古屋駅ビルで展開している商業施設もKITTEブランドだ。この「KITTE」というネーミングは「切手」と「来て」の意味が込められているという。

日本の郵便事業は、明治維新直後の鉄道網が広がるなかで鉄道の駅とセットで発展してきた。こうした歴史的経緯のなか、各地域の拠点郵便局は地方各地の城下町など中心市街地では駅前に作られてきた。そのため郵政事業は、日本の近代ビル建築の文化をけん引してきたという一面もあった。
時代は明治から令和に変わり、日本郵便はJRとともに駅前の再開発が全国に広がっている。

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内外不動産価値研究会

都市開発・不動産、再開発等に関係するプロフェッショナル集団。主に東京の不動産についてフィールドワークを重ねているが、再開発事業については全国各地の動きをウォッチしている。さらにアジア・欧米の状況についても明るいメンバーも参画している。

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