週刊、月刊誌の編集記者、出版社勤務を経て現職。経済・事件・ビジネス、またファイナンシャルプランナーの知識を生かし、年金や保険、企業レポートなど幅広いジャンルで編集ライターとして雑誌などでの執筆活動。実用書、個人の自分史などの書籍編集を行っている。
これまでの商習慣では空き家問題解決は難しい
空き家問題が深刻化する中で、2023年5月空家特措法(空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律)の改正案が成立。これによって空き家に対する固定資産税軽減がなくなるなど、本格的に放置された空き家への対策が始まった。
こうした動きなのかで、さまざま空き家に関係したビジネスも動き出しているが、決め手になるようなものは登場していない。とはいえ、数ある空き家関連ビジネスの中で実績を積み上げ、注目されているのが空き家のマッチングサイト「家いちば」だ。
「家いちば」の強さはどこにあるのか。
「まだまだ『家いちば』は成長段階で、本当にうまくいっていると言い切れるかはわからないですよね」
と話すのは、家いちばの社長藤木哲也さん。
「ただ、空き家問題が大きくなった理由の1つには、これまでの不動産会社が仲介に入る商習慣では難しい面があった。そこで新しいやり方でやるしかないと考えました」
藤木さんのいう新しいやり方とは、「空き家を売りたい人と買いたい人を直接つなぐ」マッチングである。これを最初に手がけたのが家いちばで、そのキャッチコピーも“不動産を直接売り買いする人たちの掲示板”とわかりやすい。
通常、不動産の売買では、不動産会社など仲介業者が売り手、買い手の代理として入り、物件の調査・確認や価格交渉、さまざまな書類作成などを行う。しかし、家いちばでは、まず売り手自らが家いちばの掲示板に物件を登録し、売り手自身が物件に興味を持った人からの問い合わせや、内見、値段交渉といった商談も対応する。これを家いちばでは「セルフセル方式」といっている。
そして、商談がまとまったところで、家いちばが物件の調査、契約書類の作成、重要事項説明など行い、引き渡しとなる。その費用は基本料金と通常の仲介手数料の半額に設定されている。
このような家いちばのやり方をほかの不動産会社もすぐに導入できるかというと、そうでもない。というのも、売り手と買い手が直接やり取りするこの方式について法律(宅建業法など)に明確な規定がないため、昨今のコンプライアンス規定を厳しくしている企業などでは判断が難しいからだ。
新しいビジネスにはリスクがつきもの
宅建業法とは、宅建業(不動産業)を営む際の免許制度や土地、建物の取引ルールを定めた法律で、当然これに違反すれば厳しい罰則もある。
家いちばの「セルフセル方式」に関して宅建業法上でどのように解釈されるのか、現時点ではまだ明文化された規定は存在しない。すなわち、その“グレーソーン”に事業として資金を投じて挑むことに多くの企業が二の足を踏むのは当然だろう。
「新しいことを始めるには何事にも多少のリスクがともなうものです。その覚悟があるかどうかでしょう。ただ大前提として、「法律が定める主旨」に則っているかどうか、です。宅建業法などは「消費者保護」がひとつのテーマですから、常にそれらと照らし合わせてサービスの細かなところまで設計していく姿勢が大事です。規定にないことに対する行政判断も法の主旨に立ち返って判断されるものと考えます。その点、これまで800件ほどの安全安心な売買を実現して、利用者さんからもたくさんの感謝の声をいただいております」
実際、家いちばはさまざまなメディアが取り上げ、東京都庁、国交省、公正取引委員会などとも協議を重ね、自治体に対しては空き家対策の有効なビジネスモデルとして紹介しているという。