空き家マッチングサイト「家いちば」の強さは利用者にまかせる「相互信頼力」

政府を含めた空き家問題への本格的な取り組みが始まった。これまでさまざまな空き家ビジネスが登場したが、決め手となるものはまだ。そんな業界で注目されているのが着実に実績を積み重ねてきた「家いちば」というマッチングサイトだ。「家いちば」のビジネスモデルの強みはどこにあるのか――。

小川純2023/09/25

「家いちば」のサイトのトップページ

家いちばで、「空き家」が売れる人と売れない人

少子高齢、過疎に悩む自治体にとって空き家問題は喫緊の課題だ。空き家が増えるなかで政府も法律を改正し、本腰を入れて取り組み出している。また、自治体も行政指導でオープンした空き家物件紹介サイト「空き家・空き地バンク」など物件を掲載するなど、空き家を減らすためにさまざまな取り組みを行っている。
こうした取り組みついて藤木さんはこう指摘する。

「空き家バンクにしても、自治体の空き家対策は補助金として税金を使っています。今や国も自治体も財政に余裕のないなかで、個人の資産である空き家の対応に税金を投入していいのかとも思うのです」

もちろん、家いちばに登録すれば、すべてが売れるというわけではない。売れる、売れない、の違いは売り手が積極的にコミットするかしないかにかかっている。家いちばにおいて、こうした積極的にかかわる売り手はどのくらいになるのだろうか。

「ただ物件を掲載しただけで売れるというサイトではなく、やはり売り手自身で積極的に対応するなどが必要不可欠です。家いちばの1日のサイト来訪者はおよそ1万人近くいますが、実際に物件を売却したいと書き込むのは1日2~3人程度です。比率で言えばわずか0.03%ほどになります。来訪者には買い手ユーザーも含まれますから、売り手だけに限定すればこの比率はもっと高くなるとは思いますが、この数字をいかに上げるかが課題なんですね。家いちばのセルフセル方式のような多少「面倒」な売却手段をあえて選ぶ人がどれくらいいるのか。ただ、空き家の総数はおよそ850万戸ありますから、まだまだ潜在的なニーズは大きいと思っています」

物件を掲載したあとのプロセスにも課題がある。売り手側が、問い合わせが来ているのに返信をしない、あるいは忙しいという理由で内見対応がなかなかできない、などだ。
一方、買い手のほうは、内見や契約調印の直前でドタキャンをするような人も中にはいる。

「このような『マナー上の問題』に対して注意深く対処してきました。そのためさまざまな独自のルールを定めて運営しています。
例えば、買い手の方の中には物件を見ないで買おうとする人もいますが、家いちばではそれを原則禁止していて、基本的には現地を見てからでないと購入申込書を提出することができない流れになっています。この点は、売主さんからも好評です。現地を見ない買い手に対して売主さんのほうが不信感を抱くことすらあります」

買い手、売り手にまかせながらも、きちんと寄り添いながら、というのが家いちばの大きな特徴と言えるだろう。

島、旅館、公共施設……扱わない物件はない

家いちばのもう1つの特徴は、扱う物件が住宅の空き家の限らないということだ。

「家いちばでは、土地、山林、旅館、商店、自治体の公共施設、学校や島も売ることができます。家いちばの最初の投稿は郵便局でした。“家”以外のこれらの物件の市場規模はむしろ空き家の市場規模より大きいかもしれません。サイト名を「空き家いちば」にしていないのは、そういう狙いがあります。空き家だけに限定してビジネスを行うのはもったいないと思います。
とにかく、どんな物件でも載せられますよ、といっています。そう言えるのも、これまでそういう物件を数多く売ってきたという実績もあるからなんですね。ですから、リピーターも多い。最近では神社の売り物件もありました」

家いちばの強みは「コンセプトがしっかりしているから」と藤木さんは話す。例えば、広大な土地をソーラーパネル設置を目的で買おうとする買い手が現れた場合に、景観規制などに違反しないかなどいろいろな懸念が出てきます。
しかし、そうしたことも回避できるのが家いちばの特徴と藤木さんはこう話す。

「そこが面白いところで、そもそも売り主さんが地域住民の気持ちを考えて、そういう買い手に売ってしまったよいかを見定めてくださるのです。地域の条例なども地元住民を意見を反映したものでしょうから、それを先回りして売主さんが判断してくれるわけです。これがセルフセルのよいところでもあります。こちらから口を出す必要はないのです」

家いちばの収益性はどうなっているのだろうか。

「契約書作成や交通費などを原価としてとらえていますが、1件あたりの粗利率で見ると原価率は4割になっています。これにシステム開発や人件費をといった固定費がかかりますが、現状ではこれはまかなえていない赤字状態です。ですから、いろいろ評価はいただいていますが、うちも苦労しています。
仕組み的にはほぼ完成の域に達しているのですが、まだまだシステム上の機能改善や人材面での体制整備は必要です。今は先行投資をし続けている状況です。今後は成長のスピードをさらに上げていきたいと考えています」

空き家をビジネスとして、進めていくためには何は重要なのだろうか。

「ユーザーライフに寄りすぎると長くは続きません。『貢献する』という意識は必要ですがバランスが重要です。利益を一切無視してやっている方もおられますが、社会性とビジネスを両輪で回さなくてはならなくてはうまくはいかないと思うのです」

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この記事を書いた人

小川純

小川純編集・ライター

週刊、月刊誌の編集記者、出版社勤務を経て現職。経済・事件・ビジネス、またファイナンシャルプランナーの知識を生かし、年金や保険、企業レポートなど幅広いジャンルで編集ライターとして雑誌などでの執筆活動。実用書、個人の自分史などの書籍編集を行っている。

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