「査定価格=売却価格」ではない
2022年に民法と不動産登記法が改正され、相続登記が義務化される法案が公布された。実際の義務化の目途は、24年春とされる。法律はできたが、空き家問題の根本的な解決にはなっておらず、実際に処分するにはさまざまな問題が潜んでいる。
そんな問題の象徴的な実例をご紹介しよう。
60歳の定年、再雇用について悩む秋山寬次さん(仮名・58歳)。出身は甲信越の富士山も一望できる地域で、老後をゆったり過ごすには絶好なロケーションの地域である。
そんな秋山さんだが、この数年で母方の祖母の家、病弱な叔母が住んでいる家も叔母が亡くなったら相続してほしいと言われたという。そもそも秋山さんは両親も他界しており、その実家を相続したもののすでに空き家になっている。しかも、秋山さんは父親が亡くなったあと、広い実家は何かと不便と母親は一人暮らし用のマンションを購入してそこに住んでいたため、そのマンションも相続、気づいてみたら4つの空き家(部屋)を抱え込むことになってしまった。
傍から見れば結構な資産を持っているように見えるものの、実態は空き家になった家の管理に加え、病弱の叔母の世話と、週末になるとその雑用に追われるようになってしまった。
そこで秋山さんは、都内の自宅から一番遠い祖母が住んでいた家と土地を売却することにした。売却にあたって周辺を調べたところ、周辺は高齢者が多く、人口も減少コロナ前にあったコンビニも姿を消してしまった。
このエリアの基準地価の平均は1㎡あたり2万円程度。公示地価は1㎡=2万7500円程度。いずれもバブル期のピークだった1991年の4割程度に下がり、年1~2%前後ずつ下落している。
秋山さんが相続した土地はJRの最寄り駅から7分ほどの宅地で、広さは500坪あまり。
その周辺の土地価格の相場を調べてみると、同じJRの最寄り駅の周辺で、広さ90坪の土地が坪単価6万円ほどということがわかった。地元不動産業者に相談してみると、自己負担で家を解体、整地して売れば最低でも2000万円近くで売れるという。
残置物処理を含む古家の解体と整地の費用は200~500万円近くかかりそうなこともわかり、「それなら現状のまま不動産業者に売却しても、手元に1500万円ほどになりそうだ」と秋山さんはと早合点した。