日本郵政が“不動産デベ”に変貌中、次々消える一等地にある郵便局

厳しい経営続く日本郵政。その起死回生の策が日本全国の一等地にある郵便局の土地の売却、再開発。それらは元は国民の財産で、中には文化的な価値が高いものも含まれ、いつの間にやら高級マンションに姿を変えて、新築マンションの平均価格を押し上げている。

山下努2024/08/09

大手デベから熱い視線を浴びる日本郵便の都内の関係物件

日本郵政では、5年間に5000億円規模の不動産投資を行い、2025年度は900億円程度の営業収益を目指している。
こうした日本郵便が抱える不動産は、明治以降、国鉄による鉄道便時代の縁から、各都市の駅前の郵便局がそのまま同社の資産になっている。
さらに同社の不動産資産は、全国主要都市にある社宅も加わり、いまや「JPの社宅を見たらマンションに化けると思え」という不動産業者もいるほどだ。
なかでも世田谷の中町社宅、港区の白金社宅、愛知県の高見寮、福岡県の福岡泉寮などが大手デベロッパーから熱い視線を浴びている。
前述の「JP noie」ブランドの賃貸マンションは、小石川、目白、三田、恵比寿、広尾等、人気住宅地に進出中だ。
このほか、文京区小石川・江東区木場・新宿・西早稲田等でも乗り出している。

この背景には、手紙を運ぶ郵便事業の市場の縮小がある。7月25日、日本郵便が発表した2023年度の郵便事業収支は、営業損益が896億円の赤字(前の期は211億円の赤字)。2007年の郵政民営化以降、初めて赤字に転落した22年度に続き、2年連続での赤字となった。原因は郵便物の減少と集配や運送の委託費が増加したことによる。

こうした中で経営の立て直し策が不動産事業への進出なのだ。日本郵政の増田寛也社長は就任早々の記者会見で「よい土地がいっぱいある。そこでの展開をもっと進めたい」と発言。いま、まさにそれを遂行しているに過ぎない。

昭和初期を代表する建築といわれた「旧東京簡易保険支局」(左)/工事中の様子(右)

とはいえ、郵便局のある一等地の不動産は、元は国民の財産だ。しかも、こうした日本郵便関連の建物のなかには、戦前に造られた名建築もある。その1つが三井不動産に850億円で売却された旧逓信省東京簡易保険支局(前かんぽ生命保険東京サービスセンター)だ。この再開発をめぐっては、日本郵政や小池百合子東京都知事、開発する三井不動産に、部分保存を求める市民団体や建築学会から意見書が数々出された。しかし、出来上がったものは、外観やエントランスのごく一部に往時の装飾などが残されたものの、こうした意見を聞き入れたとは思えるものではなく、むしろ、開発されたマンションに箔をつける装飾として利用されている感が強い。その効果なのか1戸45億円という超高級物件を含む「三田ガーデンヒルズ」に姿を変えている。

完成した「三田ガーデンヒルズ」

2001年誕生した小泉純一郎内閣は「聖域なき構造改革」「民間にできることは民間に」「地方にできることは地方に」「改革なくして成長なし」をキャッチフレーズに「郵政民営化は改革の本丸」とされた。そして、郵政民営化民営化の是非を問うとして、05年に衆院を解散、郵政選挙が行われ、小泉自民党が大勝利。それに反対した自民党議員は落選、当選しても自民党を追われた。その結果、郵政の民営化が行われた。

もちろん、改革を否定ものではないが、民営化した日本郵政は、国民の知らないところで、元は国有財産の日本郵便関連の不動産、郵便局が売却したり、取り壊され文化的価値のあるものがひっそりと姿を消している。
そして、こうしたことが報道されることはほとんどない。

小泉純一郎元首相(左)/小池百合子東京都知事

東京都内ではさまざまなところで再開発が進められているが、そのなかには神宮外苑や日比谷公園の再開発もあるが、こうした再開発と郵便局の跡地の再開発も無関係ではないように思う。これら多くの再開発に関わるのは大手デベロッパーの三井不動産なのである。

ちなみに、郵政民営化に反対する自民党候補者に対する象徴的な刺客になったのは東京10区の候補者に名乗り出た今の小池百合子都知事だった。

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この記事を書いた人

山下努

山下努経済アナリスト

元朝日新聞経済記者、英字新聞「ヘラルド・トリビューン朝日」記者。不動産など資本市場の分析と世代会計、文化財保護に高い関心持ち、執筆活動を行っている。『不動産絶望未来』(東洋経済新報社)などペンネーム・共著含め著書多数。

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