1985年8月生まれ。大阪府出身。
滋賀県成安造形大学住環境デザイン科を卒業後、京都で京町家の再生活用などに携わる。
結婚出産を機に上京し今は茅ヶ崎で男の子二人、黒猫一匹と暮らすシングルマザー。
2014年フィールドガレージ入社、2015年「東京銭湯-TOKYOSENTO-」で銭湯ライターとして活動。2018年7月「東京銭湯ふ動産」を立ち上げる。
オーナー様の思いのこもったアパート
練馬区桜台は、静かでありながらも都心へもアクセスに優れた魅力的なエリア。
駅前のスーパーや小さな商店が軒を連ね下町の雰囲気も残す懐かしい街並み。そんな桜台駅の風呂なし物件の「若根荘」。その若根荘とスタイリッシュにリノベーションされた「天然温泉 久松湯」をご紹介します。
「若根荘」のオーナー様と初めてお会いしたのは、東京銭湯ふ不動産を立ち上げてから半年ほど経った頃でした。物腰が柔らかく、とても丁寧なオーナーで、空いていた2部屋を見学させてもらいました。
お父さまから引き継いだというアパートを、オーナー様自身も大切にしていきたいと考えていました。それまでも不動産屋の営業から新築に建て替える話もよくあったそうですが、できるだけ現状のままで住み続けてもらいたいという強い思いがあり、物件は極力手を入れず、当時のままのたたずまいでした。

私たち東京銭湯ふ動産も、銭湯が減少していく寂しさを感じ、一人でも多くの方が銭湯に行ってもらえる風呂なし物件を紹介する活動を始めた経緯があります。
その中で、たくさんの風呂なし物件に出会い、引き継いだものを大切にしていきたいという思いがあるオーナー様に出会ってきました。特に若根荘のオーナー様との出会いでは、私たち自身の風呂なし物件に対する熱意と、オーナー様がアパートを引き継いだ思いが一致していたと感じました。

それから約6年間、新たに空いたお部屋の紹介や更新手続きなど、お付き合いを続けさせていただいております。東京銭湯ふ動産で紹介したお客様の中で、若根荘に住んでいる方々は退去することなく、更新する方が多いです。なぜだろうと考えると、桜台という町の住みやすさや、銭湯のクオリティ、そしてオーナー様の温かい人柄が大きな理由なのかなと思っています。

個性ある入居者たちが自然と集まる不思議な風呂なし物件
若根荘の素敵なところはもう1つあります。それは、この物件がなぜか個性豊かな人たちが引き寄せられる場所だということです。
初めて私が若根荘を案内したお客様は、セカンドハウスを探していた女性でした。風呂なし物件というと、女性が住みにくいと思われがちですが、意外にも女性の問い合わせが多いのです。
その方は普段、長期で仕事に出ることがあり、家にいないことも多かったため、セカンドハウス的に戻ってくる際の部屋を探していました。さらに、趣味の料理や友人を呼んでご飯を食べることを考え、若根荘の1DKの一番広い部屋を気に入ってくれました。

この部屋は、角部屋でダイニングにも窓があり、小さな机で友人とご飯を食べる風景が想像できます。その床は懐かしい装いの緑の小花の塩ビタイルで、それもなんだかいい味を出しています。奥は二面窓の日当たりの良い和室。長い仕事を終えた後のゆったり暮らす住処として気に入っていただいています。

その他にもお笑い芸人を目指す青年とその相方、10代のガッツある若手カメラマン、地方から上京して銭湯のある生活に憧れている新社会人など、さまざまな人たちが今も若根荘に住んでいます。
この6年間の間に、鍵をなくしたり、家賃が滞納されたりといろんな出来事もありましたが、そのたびにオーナー様は入居者に真摯に対応されています。
家賃滞納をしてしまった人は、払えないのではなく、振り込みを忘れてしまうことが多かったので、自動引き落としの機能について一緒に考えてくれました。鍵をなくしてしまった場合は、今後の紛失を少しでも軽減するために、スマートキーを入居者自身で取り付けることを許可してくれました。さまざまな方法を一緒に考え、入居者を受け入れてくれるオーナー様は、それぞれの人生を応援してくれています。
このようなやり取りは正直言って、面倒に感じることもあると思います。本来は不動産屋に任せてしまえば自分は何もしなくて済みます。でも、「何かしてあげたい」という気持ちや、「ここに住んでくれてありがとう」という感謝の気持ちから一緒に考えてくれるのだろうなと思います。
だからこそ、入居者たちはこの若根荘に住み続けているのだと思います。
