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再建築不可、私道持分なし、動物も棲みついた空き家の売却

まったく使うあてもない相続した空き家。現状のまま売るためにやっておきたい最低限の準備、価格設定のポイント。

田中裕治2024/02/29

1階DK(左上)/2階和室(右上)/2階のベランダはサンルーム(左下)/浴室(右下)

リーズナブルな価格の決め方

こうした不具合に対応して、いよいよ売却活動の開始です。
このケースのような建替えができない戸建(再建築不可物件)は、都市銀行・地方銀行から住宅ローンを借りることができないため、売却期間が長期にわたることを覚悟しておく必要があります。
そのため他の建替えができる戸建と比較し、リーズナブルな価格設定がポイントになります。
販売価格は買主が仮にノンバンクで住宅ローン(金利3.9%)を利用し、賃貸ができるくらいのリフォーム工事を行う費用も考慮し、かつ、周辺の賃貸住宅の家賃と同等の毎月返済額となるような金額の880万円としました。

販売活動は、不動産会社専用サイトやアットホーム、ハトマークサイト、不動産ジャパンなどのサイトに掲載し、あわせて以前より当社にご登録いただいているお客さまにもお声がけしていきました。

そして、販売開始から9か月で830万円という金額で売却することに成功しました。
ただ、そのタイミングで再度隣家から、動物が棲みついているという苦情が入りすぐに対応しました。今回も入り込んでいたのはハクビシンでした。

売却が決まれば、契約書の作成を行いますが、この物件の契約書にはインスペクション(建物診断)の結果を詳細に記載し、内容についても事前に買主にも確認してもらいました。

そして、売買契約締結後、路地を所有する地元不動産会社に路地の通行・掘削に関する承諾のお願いをし、無事に買主宛の路地の通行・掘削の承諾書をもらいました。

売るための準備を整えることで信頼が生まれる

この空き家売却のポイントは「売却に向けてどう準備をするか」です。

今回の物件は、1)最寄りの駅までバスを使うエリア、2)接道義務を満たしていない、3)連棟式建物で建替え・増改築ができない再建築不可物件と、正直、売りづらい条件がそろっていました。
しかも、害獣駆除、境界設置、樹木の伐採などにも対応しなければならず、実際の売却活動を始めるまでにはいくつものハードルがありました。

しかしながら、こうした問題解決をするなかで、路地部分所有者や隣家などとの良好な関係を築いたこと、インスペクション(建物診断)を事前に行い、買主に物件そのものは安心安全であるということを理解してもらってこと、さらに、価格も周辺の物件と比較してお買い得感のある金額に設定したことなど、その都度、対応。これらどれか1つでも欠けていたら、売却に至らなかったと思います。
結果的に取得から売却までは1年9か月あまりかかりましたが、相談者、買主の双方が満足できるものになったと思います。

不動産の売却、とくに空き家の売却では、物件そのものは現状のままであっても、何よりも周辺の問題点をクリアしておく必要があります。そして、何事も「諦めない」ことが大切です。

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この記事を書いた人

田中裕治

田中裕治株式会社リライト代表取締役

一般社団法人全国空き家流通促進機構代表理事
1978年神奈川県生まれ。大学卒業後大手不不動産会社に勤務したのち、買取再販売メインとする不動産会社に転職。その後、34歳で株式会社リライトを設立。創業以来、赤字の依頼でも地方まで出かけ、近隣住民や役所などと交渉。売れない困った不動産売却のノウハウを身につけてきた。また、神奈川県横浜市神奈川区で空き家を有志とともにで再生し、家族食堂など他世代交流拠点「子安の丘みんなの家」を運営している。
著書に『売れない不動産はない!』(叶舎刊)『困った不動産を高く売る裏ワザ』(ぱる出版刊)『不動産をうま~く処理する!とっておき11の方法』(ファストブック刊)がある。

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