当時マンション供給戸数トップの大京に新卒入社で5年間在籍、その後26年間は在日オーストラリア大使館、2018年から豪州最大手不動産会社に勤務、2021年に独立してコンサルタント業と不動産エージェント業を兼業している。趣味はテニス、マンション管理、コントラクトブリッジ。
マンションの現状が把握できる「重要事項調査報告書」
以前の記事ではマンションを購入の際に気をつけるべき管理状況チェックの基本的なポイントをお伝えしました。(「マンションを購入するなら管理で選べ――管理組合役員目線からのチェックポイント」)
今回は外観だけでは分からない、特に管理規約や重要事項調査報告書のチェックポイントについて解説していきます。
中古マンションの場合は、専有部分の状況に加えて、マンション全体の修繕積立金の残高、管理費等滞納者の有無と合計金額、修繕積立金等の改定予定、長期修繕計画、修繕履歴、管理組合の活動状況など、新築マンションの場合よりも物件の良し悪しを見極める材料が格段に多くあります。
こうした情報はしっかりした管理会社が管理しているマンションであれば、管理規約、総会議事録、重要事項調査報告書(重調)などを入手することで容易でチェックすることができます。
重調とは、売買契約前に提示される重要事項説明書(重説)とは別の文書で、当該マンションの管理体制や状況について記載した資料です。こうした文書の存在を教えてくれない仲介業者もいますが、購入者としては物件の本当の資産価値を知る上でも、他の物件と比較する際に役立つ情報がたくさん含まれています。
通常は管理規約や重調は売主側の仲介業者が手数料(2~3万円程度)を負担して管理会社から入手する資料になります。上の写真は管理会社のホームページの仲介業者向けページの例です。
入手には管理会社へ依頼し1週間程度の時間がかかるようですが、売主がしっかりした人なら、管理規約や総会議事録はもちろん重調に記載されている情報の根拠となる資料をきちんと保管している場合もあるため、管理会社を経由するよりも早く提供してもらえるケースもあります。
では、具体的なチェック項目を説明していきましょう。
チェックポイント1:居住ルール(管理規約等)で後悔しないために
管理規約について、国土交通省の標準管理規約と違うそのマンション特有の条文があるか、その相違点に問題がないか、またペットと同居する方は飼育ルールについても詳しく見ていきます。仲介業者が「ペット可の物件です」と言っても、「小型犬を1頭のみ」といったサイズや数の制限があることが多いので注意が必要です。
不動産業者の中にはペット不可にも関わらず、「最近はペットを飼育する人が多いので皆さんで管理規約を変更すれば良いですよ」などと適当なことを言う営業担当者もいます。しかし、ペット不可のマンションにはペットがいないという理由で居住している人もいます。管理規約の変更は管理組合総会で4分の3以上の賛成が必要で、そう簡単にできるものではありません。
駐車場も「空き区画あり」と記載があっても機械式駐車場のみであれば車のサイズや重量に制限があり、入らないということもあります。また、空き区画数が多い場合には駐車場収入が予定通りに貯まらず長期修繕計画に支障をきたすことになるかもしれませんので、駐車できる車のサイズ制限や空き区画数などもチェックが必要です。
楽器演奏など居住マナー、リフォームの仕様や手続き、駐輪場や共用施設の使用料金や空き状況なども要チェックな項目です。加えて、民泊や事務所利用を考えている人はその可否やルールなども見極めておく必要があります。
チェックポイント2:管理費や修繕積立金等の滞納状況からは将来のトラブルが見えてくる
購入する部屋における管理費や修繕積立金の滞納の有無はもちろんですが、マンション全体の滞納者数や滞納額合計も確認しておく必要があります。購入する部屋に滞納があれば、その部屋の買主が請求される可能性があります。また、マンション全体の滞納金額が大きくなると管理費から月々管理会社へ支払う管理委託費が払いきれなくなったり、修繕積立金が予定通り貯まらず大規模修繕工事が適切に行えなくなったりします。
滞納者への督促などは管理会社がやってくれると思われがちですが、たいていは滞納6ヶ月目までは管理会社が形式的に行うものの、それ以後の特に法的手続きでは、理事長の手間が激増します。管理会社も手伝ってはくれますが、そこは担当者次第。優秀な担当者ならさまざまな手続きを的確に導いてくれます。
しかし、滞納状況・金額の確認から、滞納者本人との連絡、理事会や総会での報告、そして訴訟になると膨大な時間、手間、費用を要します。ましてや滞納者が複数いたり、投資目的の不在区分所有者で行方不明になっていたりしていれば、管理組合にとっては金銭的・時間的な負担がかかり、中でも理事長の精神的な負担も計り知れません。長期滞納者が複数いるような物件であれば、購入は避けた方がよいでしょう。