知らぬ間に「廃墟になった空き家」を相続 相続登記義務化の落とし穴

夫が他界して数年、突然、縁もゆかりもない自治体の役所から電話で、廃墟になった空き家の存在を知った相談者。今さら相続放棄もできずにその空き家処分に動き出すことに。2024年4が1日から相続登記義務化が開始されるが、誰にでも身に覚えのない空き家や空き地問題がこれから出てくる可能性がある。

田中裕治2024/01/23

「タダでいいので処分してほしい」

後日、改めて物件の不動産の資料をご持参いただき、お聞きした物件の内容は以下のようなものでした。

・所在地は千葉県山武市。
・土地は106㎡、建物は69㎡の木造2階建
・間取りは3DK
・周辺には多数の空地や空き家がある
・交通は駅からバスを使うエリア
・現状は建物が見えないくらい樹木が生い茂り、ツタが窓を割り、建物内部に進入している
・10年以上空き家で、老朽化が激しく外壁は剥がれ、腐食・雨漏りなどもあり現状での使用は不可
・家の鍵がない
・周辺地域にも水道管の埋設が井戸水を利用
・境界標が一部不明

建物内の状況/1Fのキッチン(左上)、1Fの和室(右上)、2F洋室(左下)、蔦が絡むベランダ(右下)

ご相談者のご希望は「建物が老朽化したこの不動産を今後、維持管理をしていくことが困難なため、タダでもいいから手放したい」というものでした。

こうしたお話をお聞きし、当社でも最初は市役所・土木事務所などからすぐに調査を開始しました
ひと通りの調査を行ったところ、法令上の制限からは特に大きな問題となることを見当たりませんでした。しかし、売却にあたってネックになりそうな点は、周辺地域に水道管が埋設されておらず「井戸」を利用しているということでした。「井戸」は水質を心配される方も多く、それだけで需要が減ってしまいます。

現地調査と並行した見学会

こうした法令上の制限の調査をひと通り終えたところで現地の調査開始です。
現地に到着すると、周辺は想像以上に樹木が生い茂っており、道路からは建物も見えないくらいの状態でした。今回はご相談者が鍵をお持ちでなかったため、前もって鍵屋に依頼し、現地調査時に鍵の開錠作業を行ってもらいました。

10年以上空き家だった建物へと、恐る恐る足を踏み入れます。すると、床が腐食しており、今にも抜けてしまいそうな状況でした。また、和室の畳にはカビが生えており、2階の窓ガラスの一部が割れて、そこから樹木のツタが建物内部に侵入していました。
敷地を確認すると、一部の境界標が見つかりませんでした。

まさに「廃墟」という言葉が当てはまる物件で売却の難易度が高い不動産でした。
とはいえ、当社にはこういった「難あり不動産を購入したい/購入できるお客様」に多数ご登録いただいています。その中からこの物件に興味をお持ちになるではという方を数組ピックアップ。事前に私が現地に行く際に建物の内見ができる旨、お知らせをし、私の現地調査が終わる頃にこうしたお客さまがご見学のため、現地までお越しになられ物件をご見学いただけました。

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この記事を書いた人

田中裕治

田中裕治株式会社リライト代表取締役

一般社団法人全国空き家流通促進機構代表理事
1978年神奈川県生まれ。大学卒業後大手不不動産会社に勤務したのち、買取再販売メインとする不動産会社に転職。その後、34歳で株式会社リライトを設立。創業以来、赤字の依頼でも地方まで出かけ、近隣住民や役所などと交渉。売れない困った不動産売却のノウハウを身につけてきた。また、神奈川県横浜市神奈川区で空き家を有志とともにで再生し、家族食堂など他世代交流拠点「子安の丘みんなの家」を運営している。
著書に『売れない不動産はない!』(叶舎刊)『困った不動産を高く売る裏ワザ』(ぱる出版刊)『不動産をうま~く処理する!とっておき11の方法』(ファストブック刊)がある。

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