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「繰下げ受給」は何歳まで? 男性68歳・女性70歳を超えると手取りが減る!?

年金は繰り下げるほど増えるが、増えた分には税と社会保険料がかかる。手取りで計算し直すと、70歳開始の損益分岐は85.1歳に延びる。平均余命と生存率で生涯の手取りの見込みを比べると、最も多いのは男性68歳・女性70歳開始で、男性は72歳開始では65歳受給を下回った。

複眼FPラボ2026/09/29

「繰下げ受給」は何歳まで? 男性68歳・女性70歳を超えると手取りが減る!?
  • 70歳まで繰り下げた場合の損益分岐は、額面81.9歳・手取り85.1歳
  • 物差しは平均寿命でなく平均余命。64歳男性は84.5歳、女性は89.4歳まで
  • 生涯の手取りが最も多いのは男性68歳・女性70歳開始。男性72歳開始は損

この記事でわかること

繰り下げの増額率と、75歳まで待てる人
「約12年で元が取れる」の計算の中身
税と社会保険料を引くと、分岐は約3年うしろへ
物差しは平均寿命でなく、いまの年齢からの平均余命
手取りの期待値が最も多くなる受給開始年齢
平均だけで決めないために

年金を65歳で受け取らず、遅らせれば増える。1か月遅らせるごとに0.7%、70歳まで待てば42%、75歳まで待てば84%増える。「損益分岐は約12年後だから、81歳より長生きするなら得」という説明もよく知られている。

ところがこの計算には、抜けているものが2つある。

1つは、増えた年金にかかる税金と社会保険料。もう1つは、自分があと何年生きそうかという寿命の見通しだ。この2つを入れて、何歳まで繰り下げるのが最も得なのかを計算し直してみたい。

増額は一生続く

日本年金機構の説明では、増額率は次の式で決まる。

増額率(最大84%)= 0.7% × 65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数

受給開始年齢 繰り下げた月数 増額率
66歳 12か月 8.4%
68歳 36か月 25.2%
70歳 60か月 42.0%
75歳 120か月 84.0%

昭和27年4月2日以後生まれなら75歳まで繰り下げられ、いま60歳や64歳の人はすべて該当する。増額は一生涯続くので、長生きするほど効く仕組みだ。

額面では81.9歳が分岐点

65歳から年192万円(月16万円)を受け取れる人で考えると、2026年度の老齢基礎年金の満額84万7300円に、厚生年金が約107万円プラスされる水準だ。

70歳まで繰り下げると増額率は42%で、年金は272万6400円になる。65歳から70歳までに受け取らなかった960万円を、1年あたりの増加額80万6400円で割ると11.9年。70歳に足して、損益分岐は81.9歳だ。これが一般に言われる「約12年」の中身である。

手取りで見ると85歳にずれる

年金は所得税と住民税の対象で、国民健康保険料(75歳からは後期高齢者医療保険料)と介護保険料も所得に応じて決まる。年金が増えれば、これらの負担も増える。

65歳以上で年金収入が330万円以下なら、公的年金等控除は110万円で一定だ。控除が増えないので、増えた年金はほぼそのまま課税と保険料の対象になる。単身で年金収入のみとし、保険料は全国平均に近い率を置いて試算したのが次の表だ。

項目 65歳から受給 70歳から受給
年金額(額面) 192万0000円 272万6400円
国民健康保険料 約6万0000円 約15万8000円
介護保険料 約9万0000円 約9万7000円
住民税 約2万9000円 約9万9000円
所得税 0円 約3万8000円
税・社会保険料の負担(計) 約17万9000円 約39万2000円
手取り(概算) 約174万1000円 約233万4000円

年金は1.42倍だが、負担は約2.2倍に増える。最も増えるのは国民健康保険料で、約6万円から約15万8000円へ2.6倍になる。保険料の所得割は、所得から43万円を引いた額に料率を掛けて決まるため、増えた年金の1割近くがそのまま保険料に回る。住民税も3倍を超え、65歳受給ではかからなかった所得税も発生する。

一方で、繰り下げて待つ5年間は年金収入がゼロになる。住民税はかからず、国民健康保険料の均等割は7割軽減され、介護保険料も最も低い段階に下がるので、負担は年3万6000円ほどで済む。65歳から受け取る人は同じ5年間に毎年約17万9000円を納めるので、この差は繰り下げる側の得になる。

この両方を入れて65歳からの手取りの累計を比べると、70歳繰り下げの損益分岐は85.1歳になる。額面より3.2年うしろだ。

70歳まで繰り下げた場合の損益分岐。額面で計算すると81.9歳、税と社会保険料を引いた手取りでは85.1歳で、3.2年うしろにずれる
70歳まで繰り下げた場合の損益分岐(額面と手取り)
受給開始年齢 損益分岐(額面) 損益分岐(手取り)
66歳 77.9歳 81.1歳
68歳 79.9歳 82.8歳
70歳 81.9歳 85.1歳
72歳 83.9歳 86.9歳
75歳 86.9歳 89.8歳

何歳から受け取る場合でも、手取りで見ると分岐はおおむね3年うしろにずれる。

この3年は小さくない。後で見る生命表で計算すると、64歳の男性が82歳まで生きる割合は63.3%だが、85歳までなら51.6%に下がる。額面の説明を信じて「82歳まで生きれば得」と考えると、元が取れる見込みは3人に2人から、2人に1人に減る。

なお年金額は物価や賃金に合わせて毎年改定されるが、試算は2026年度の水準で固定した。いまのお金の価値に置き直した比較と考えればいい。

60歳と64歳の「あと何年」

では85歳は遠いのか、近いのか。ここで平均寿命を持ち出すのは正確ではない。厚生労働省の2025年簡易生命表で平均寿命は男性81.35年、女性87.33年だが、これは0歳の人の見通しだ。

60歳まで生きた人は、それより長く生きる。平均寿命の81.35年を物差しにすると、男性は66歳への繰り下げ(手取りの分岐81.1歳)でかろうじて元が取れるだけで、それより先はどれも損に見えるが、それは物差しの取り違えだ。見るべきは、いまの年齢からの平均余命である。

現在の年齢 平均余命 平均で何歳まで 90歳まで生きる割合
60歳・男性 23.86年 83.9歳 28.6%
60歳・女性 29.07年 89.1歳 52.9%
64歳・男性 20.50年 84.5歳 29.4%
64歳・女性 25.42年 89.4歳 53.5%

平均余命は、年を重ねるほど行き着く年齢がうしろに延びる。60歳の男性は平均で83.9歳までだが、64歳まで生きた男性は84.5歳までになる。途中で亡くなった人が計算から外れるからだ。

64歳の男性は平均で84.5歳まで生き、70歳繰り下げの手取りの分岐85.1歳にわずかに届かない。生存率で見ても、64歳の男性が85歳まで生きる割合は51.6%で、70歳まで待って元が取れるかはほぼ五分五分になる。女性は平均で89.4歳まで生き、分岐を4年以上上回る。85歳まで生きる割合も73.7%と高い。同じ70歳繰り下げでも、男女で答えが割れる。

最も得なのは男性68歳・女性70歳

満開の桜の木の下で、並んで花を見上げる夫婦の後ろ姿
いくつになっても税金と社会保険料はなくならない

平均余命はあくまで平均で、早く亡くなる人もいれば100歳まで生きる人もいる。そこで生命表の年齢ごとの生存率を使い、各年齢まで生きている確率で手取りを重み付けして、65歳以降に受け取る手取りの総額の期待値を受給開始年齢ごとに出した。

受給開始年齢 64歳男性 64歳女性
65歳(基準) 3392万円 4247万円
66歳 +43万円 +99万円
67歳 +73万円 +185万円
68歳 +78万円 +245万円
70歳 +9万円 +273万円
72歳 ▲107万円 +250万円
75歳 ▲410万円 +55万円

64歳の男性は68歳開始が最も多く、65歳受給より78万円上回る。70歳まで待つと差はほぼ消え、72歳では65歳受給を下回る。女性は70歳開始が最も多く、273万円上回る。60歳で計算しても、男性68歳・女性70歳という結論は変わらなかった。

待てば年金は増えるが、受け取れる年数は減り、途中で亡くなる確率も上がる。その釣り合いが取れる点が、男性では68歳、女性では70歳になる。

男性の68歳と70歳の間で期待値が落ち込むのは、税の仕組みによる。2028年分以後の所得税は、合計所得132万円以下なら基礎控除が99万円、超えると62万円に下がる。年金だけの人なら年金収入242万円がその線だ。68歳開始の240万3840円は線の内側に収まるが、69歳開始の256万5120円は外に出る。

もう一つ知っておきたいのは、繰り下げを待っている間に亡くなっても、年金がすべて消えるわけではないことだ。遺族は65歳時点の年金額で、最大5年分をさかのぼって受け取れる。

平均で決めない

この期待値は、生命表どおりに人が亡くなると置いた平均の話だ。健康状態や家族の病歴によって、自分の寿命の見通しは平均から大きくずれる。64歳の女性の半数以上は90歳まで生きる。長生きしたときに年金が月16万円か月22万7200円かは、損得の計算とは別の重みを持つ。

ここまでの試算は、基礎年金と厚生年金を両方とも繰り下げた場合だ。実際には一方だけ繰り下げる選び方ができ、年下の配偶者がいれば加給年金が絡み、保険料の未納があれば基礎年金の額そのものが変わる。次回はこの3つで損益分岐がどう動くかを計算してみる。

※増額率と対象の生年月日は日本年金機構「年金の繰下げ受給」、平均寿命・平均余命・生存率は厚生労働省「令和7年簡易生命表」による。試算は単身・年金収入のみ・2026年度の水準で固定した概算で、税額と保険料は自治体や個人の状況で変わる。

※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品を推奨するものではありません。年金の受給額や繰り下げによる増額は個々の加入状況により異なります。詳細は日本年金機構または年金事務所にご確認ください。

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この記事を書いた人

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マクロ経済の潮流から日々の暮らしに寄り添うお金の話まで――複眼的な視点で「生活」と「ファイナンス」を読み解く実践的チーム。メンバーは、生活者のリアルを綴るライター、現場感覚を持つファイナンシャルプランナー、そして個人に最も近い立場でライフリスクと向き合う生命保険・損害保険の営業パーソン。異なる立場と経験から、単なる数字や制度にとどまらない“生きた情報”を発信している。

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