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「繰下げ受給」は何歳まで(2) 実は基礎年金のみ繰下げがお得な場合も 加給年金の注意点

年金の繰り下げは、全部か、やらないかの二択ではない。基礎年金だけを70歳まで繰り下げると手取りの損益分岐は83.5歳で、64歳男性の平均余命の内側に入る。年下の配偶者がいれば加給年金、未納があれば土台の額で答えが変わる。

複眼FPラボ2026/09/30

「繰下げ受給」は何歳まで(2) 実は基礎年金のみ繰下げがお得な場合も 加給年金の注意点
  • 基礎年金だけ70歳まで繰り下げると手取りの分岐は83.5歳、男性にも分がいい
  • 厚生年金を繰り下げると待機中は加給年金ゼロ、5歳下の配偶者なら211万円
  • 未納の穴は繰り下げでは埋まらない。60〜65歳の任意加入で土台を増やせる

この記事でわかること

基礎年金だけ・厚生年金だけを繰り下げたときの損益分岐
厚生年金を繰り下げると受け取れなくなる加給年金の額
未納の穴を埋める任意加入と追納

年金の繰り下げは、全部やるか、やらないかの二択ではない。老齢基礎年金と老齢厚生年金は、別々に繰り下げられる。年下の配偶者がいれば加給年金が絡み、保険料の未納があれば土台の金額そのものが変わる。この3つで損益分岐がどう動く。
具体的にどのような違いあるのかを見ていこう。

65歳時点で年192万円を受け取れる人が両方とも70歳まで繰り下げると、税と社会保険料を引いた手取りの損益分岐は85.1歳だった。いま64歳の男性の平均余命は84.5歳まで、女性は89.4歳まで。そこでこの平均余命を前提に試算は単身・2026年度の水準で、税と保険料は全国平均に近い率を置いた概算でシミュレーションしてみた。

一方だけなら分岐が早まる

受給開始年齢 両方を繰り下げ 基礎年金だけ 厚生年金だけ
68歳 82.8歳 81.5歳 81.7歳
70歳 85.1歳 83.5歳 84.1歳
75歳 89.8歳 89.0歳 89.3歳

額面なら、どれを繰り下げても70歳開始の分岐は81.9歳で同じだ。増額率が同じなので、額面の分岐は金額の大小に左右されない。手取りで差がつくのは、一方だけなら年金の増え方が小さく、税や保険料の段差を越えにくくなる。

基礎年金だけを70歳まで繰り下げると、65歳から69歳までは厚生年金の約107万円を受け取り、70歳から基礎年金が84万7300円から約120万3000円に増える。分岐は83.5歳で、64歳の男性の平均余命84.5歳の内側に入る。

生命表の生存率で期待値を出しても同じ傾向になる。64歳の男性が70歳まで待つ場合、両方を繰り下げると65歳受給より9万円多いだけだが、基礎年金だけなら45万円多い。男性で70歳まで待つなら、一方に絞るほうが計算上は分がいい。

では、どちらを繰り下げるか。
64歳の男性が68歳まで繰り下げる場合の期待値は、厚生年金だけなら65歳受給より66万円多く、基礎年金だけなら55万円多い。70歳まで待つ場合は基礎年金だけが45万円、厚生年金だけが37万円で、順位が入れ替わる。
女性の70歳繰り下げでは、厚生年金だけが187万円、基礎年金だけが166万円だ。差はそれほど大きくないので、どちらを選ぶかは、次に見る加給年金と振替加算の有無で決めてかまわない。

手続きの面では、両方とも繰り下げるなら65歳の時点で何もしなくていい。一方だけを65歳から受け取るときは、年金請求書で受け取る側を選んで年金事務所に出す。公務員として働いた期間があり、共済組合からも厚生年金を受け取る人は、日本年金機構の厚生年金と共済の厚生年金を別々には繰り下げられない。

加給年金は厚生年金に付く「家族手当」

加給年金は、厚生年金の加入期間が20年以上ある人が65歳になったとき、生計を維持している65歳未満の配偶者か、18歳になった年度末までの子がいれば、老齢厚生年金に上乗せされるものだ。配偶者は年収850万円未満であることが条件になる。

2026年度の額は、配偶者が24万3800円。ただ、加給年金は受給者の生年月日に応じた特別加算が付き、昭和18年4月2日以後生まれなら17万9900円で、合計42万3700円になる。子は2人目まで各24万3800円、3人目からは各8万1300円だ。

配偶者の分は、配偶者が65歳になるまで続く。5歳下の配偶者がいれば5年間で211万8500円になる。配偶者が年上で、受給者が65歳になった時点。すでに65歳を超えていれば、加給年金はそもそも付かない。

配偶者自身が厚生年金に20年以上加入し、老齢厚生年金を受け取る権利を持っていれば、加給年金は止まる。2022年3月までは、配偶者の年金が在職などで全額止められていれば加給年金は支給されていたが、4月からは配偶者に受け取る権利があるだけで止まるようになった。共働きで配偶者も長く会社員だった家庭では、加給年金はもともと当てにできない。

繰り下げとの関係で押さえたいのは3点だ。

・加給年金は老齢厚生年金に付くので、厚生年金を繰り下げると待機中は受け取れない
・受け取れなかった加給年金は、あとで増額されて戻ってくることもない
・基礎年金だけを繰り下げるなら、加給年金はそのまま受け取れる

配偶者との年齢差 受け取れなくなる加給年金 厚生年金を70歳まで繰り下げた場合の損益分岐(額面)
対象外 なし 81.9歳
3歳下 127万1100円 84.7歳
5歳下 211万8500円 86.6歳

額面でも、5歳下の配偶者がいれば分岐は86.6歳まで遠のき、手取りで見ればさらにうしろ倒しになる。加給年金の対象になる人が繰り下げるなら、基礎年金だけにするのが定石だ。

配偶者の側にも同じ構図がある。配偶者が65歳になると加給年金は終わり、代わりに配偶者の基礎年金に振替加算が付く(昭和41年4月1日以前生まれの配偶者に限る)。配偶者が基礎年金を繰り下げると、待機中は振替加算を受け取れず、これも増額されない。

加給年金には制度改正も控える。
2025年の年金制度改正法で、2028年4月以後に受給権が発生する人の配偶者加給年金は約1割減る。いま64歳の人は2027年9月までに65歳になるので現行の額だが、60歳の人は2030年から2031年にかけて65歳を迎え、減額後の額になる。

未納があると土台が小さくなる

基礎年金の額は、20歳から60歳までの40年間、480か月の保険料の納め方で決まる。

老齢基礎年金 = 84万7300円 × 保険料を納めた月数 ÷ 480

免除を受けた月は一部が反映される。2009年4月以後の期間なら、全額免除でも2分の1、半額免除なら4分の3が年金に入る。これに対して未納の月は、まったく反映されない。受給には、加入期間が10年以上あることも要る。

未納の期間 65歳から受給 70歳まで繰り下げ
なし 847,300円 1,203,166円
5年(60か月) 741,388円 1,052,771円
10年(120か月) 635,475円 902,375円

繰り下げの増額率は、未納で小さくなった額にかかる。5年の未納がある人が70歳まで繰り下げても、未納のない人の70歳繰り下げより年15万円少ないままだ。繰り下げで穴は埋まらない。

穴を埋める手段は別にある。60歳から65歳までの間なら、国民年金に任意加入して保険料を納められる。20〜60歳の納付月数が480か月に満たず、繰上げ受給をしておらず、厚生年金に加入していない人が対象だ。2026年度の保険料は月1万7920円。加入は申し出た月からで、さかのぼることはできない。

5年分の60か月を納めると、保険料は107万5200円で、年金は年10万5913円増える。10.2年で元が取れ、65歳から受け取れば75歳過ぎに回収が終わる。支払った保険料は社会保険料控除の対象にもなる。いま60歳の人は5年間使えるが、64歳の人は65歳までの残りの月だけだ。仮に12か月納めると、保険料21万5040円で年金は年2万1183円増え、回収にかかる年数は同じ10.2年になる。任意加入で増やした基礎年金も、繰り下げれば同じ率で増える。

このほか、納め忘れた保険料は2年以内なら後から納められる。免除や猶予を受けた期間は、10年以内なら追納できる。

未納がある人は、繰下げの損得を考える前に、土台の穴を埋められるかを確かめたい。

65歳を過ぎても働く人にとっては、話がもう一段変わる。給与があれば生活費に困らないので繰下げが向く、というのが通説だが、在職中の税と社会保険料まで入れると、損益分岐の数字にはその差がほとんど表れない。次回は70歳まで働く場合を計算する。

※繰り下げと加給年金・振替加算の扱い、加給年金の額、老齢基礎年金の計算式、任意加入と追納の制度は日本年金機構の資料による。試算は単身・年金収入のみ・2026年度の水準で固定した概算で、税額と保険料は自治体や個人の状況で変わる。

※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品を推奨するものではありません。年金の受給額や繰り下げによる増額は個々の加入状況により異なります。詳細は日本年金機構または年金事務所にご確認ください。

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マクロ経済の潮流から日々の暮らしに寄り添うお金の話まで――複眼的な視点で「生活」と「ファイナンス」を読み解く実践的チーム。メンバーは、生活者のリアルを綴るライター、現場感覚を持つファイナンシャルプランナー、そして個人に最も近い立場でライフリスクと向き合う生命保険・損害保険の営業パーソン。異なる立場と経験から、単なる数字や制度にとどまらない“生きた情報”を発信している。

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