「レッドゾーン」区域の土地売却に必要なこと(神奈川県横須賀市)

相続した土地は、土砂災害特別警戒区域、急傾斜地、所有者不明の隣地という崖崩れの危険性が高く、売却困難な「負動産」だった。この 難題山積の土地売却ができた理由とは。

田中裕治2025/02/02

土砂災害警戒区域の現実

依頼者の話を聞いたあと、改めて役所への調査を行いました。
市役所での調査では、土地のほぼ全部が土砂災害特別警戒区域、俗にいうレッドゾーンという区域及び一部が急傾斜地崩壊危険区域に指定されていること。「急傾斜地崩壊危険区域」については、今後その範囲が拡大する可能性があることがわかりました。
また、この区域で建物の建築を行うには許可が必要で、加えて土地の一部が過去に崖崩れを起こした経緯があるため、新たに建物を建てるには多額の工事費がかかる可能性がありました。ほかにも水道、下水、ガスの引込みもない土地であるということもわかりました。

市役所での調査後、現地を調査。
土地面積は全部で659㎡。そのうち15㎡くらいが平らな部分で、現状ではゴミ置場として利用されています。
そして、車も入らないような細い路地を入っていったその奥は急傾斜地で、過去に崖崩れした傷跡がいまも残されていました。土地の北側隣地の土地がえぐれている状態でした。
一方、南側隣地は何年も放置された空き家があり、周辺は鬱蒼(うっそう)とした樹木に囲まれています。
しかも、隣との境界標はほとんどなく、これまで私自身さまざまな空家、空地をみてきましたが、「これはなかなか手強い土地だ」という印象の土地でした。

うっそうとした雑木林になっている土地


崖地保護工事をすると使えるところがない

こうした現地調査を終えたころ、依頼者の元に県から「急傾斜地崩壊危険区域の範囲拡大のための基礎調査」というお知らせが届きました。
これは依頼者が何年も前からこの土地や隣地の崖が崩落することのないよう神奈川県に崖地保護の要望書を提出していたため、崖地保護の第一歩として基礎調査を行政主体で測量を実施するというものでした。

管轄は横須賀土木事務所急傾斜地課という部署で、調査の進捗状況の確認のため、その窓口に行き、詳細ヒアリングを行いました。
土木事務所のヒアリングでは「現状としては神奈川県での崖地保護工事ができるかはわからない。もし、崖地保護工事ができた場合、相談さている土地はほぼ使える場所がなくなってしまう」とのことでした。

その後、依頼者と土地の処分について検討をしていると、隣地が所有者不明土地であることも判明しました。隣地が所有者不明土地のままでは崖地保護工事が進みません。そこで崖地保護の要望書を依頼者が提出した際に所有者不明土地について弁護士に依頼し、財産管理人の申立てを行いました。

後日、再度現地に行った際に近所の方から話を聞いたところ、「この空き家の所有者は外国人らしく、隣の墓地所有者も相続登記がされていないため誰が所有者かわからないと、土地家屋調査士の先生が言っていた」というお話。
さらに土地の目の前にお住まいの方からは「また崖崩れるのではないかととても不安です」という話がありました。

1 2 3

この記事を書いた人

田中裕治

田中裕治株式会社リライト代表取締役

一般社団法人全国空き家流通促進機構代表理事
1978年神奈川県生まれ。大学卒業後大手不不動産会社に勤務したのち、買取再販売メインとする不動産会社に転職。その後、34歳で株式会社リライトを設立。創業以来、赤字の依頼でも地方まで出かけ、近隣住民や役所などと交渉。売れない困った不動産売却のノウハウを身につけてきた。また、神奈川県横浜市神奈川区で空き家を有志とともにで再生し、家族食堂など他世代交流拠点「子安の丘みんなの家」を運営している。
著書に『売れない不動産はない!』(叶舎刊)『困った不動産を高く売る裏ワザ』(ぱる出版刊)『不動産をうま~く処理する!とっておき11の方法』(ファストブック刊)がある。

  • WEB

※このサイトは「事業再構築補助金」を活用しています