北里大学薬学部卒業後、大学病院、企業診療所、透析施設で薬剤師として勤務。その後、製薬会社で企画販売に従事し、体調を崩した時に漢方薬に出会い、漢方を学びはじめる。日本漢方協会漢方講座を経て、田畑隆一郎先生の無門塾入門、愛全診療所 蓮村幸兌先生(漢方専門医)の漢方外来にて研修。現在は「より健やかに、更に美しく」を目指して患者さんの漢方相談、わかりやすい漢方の啓蒙活動に取り組んでいる。著書に『更年期の不調に効く自分漢方の見つけ方』(ごきげんビジネス出版)がある。
食生活の欧米化により胃の不調を訴える人は増える傾向にあり、コロナ禍でさらに増えたといわれています。
胃の機能は体調、食生活、ストレスなどの影響を受けやすく、胃の不調といっても、食欲不振や胃もたれ、胃痛など症状はさまざまです。漢方では、主な原因は「気」や「水」の巡りの不調と考えます。
胃の不調が起こる原因を漢方的なタイプに分け、それぞれ代表的な漢方薬を紹介します。
1)もともと胃腸が弱い脾虚(ひきょ)タイプ
もともと胃腸が弱く消化吸収の働きが低下しているために、あまり食欲がない、悪心・嘔吐、胃の痛みなどがみられます。また、むくみや冷えを伴うこともあります。
改善させるには、「気」を補いながら余分な「水」をさばくことで胃腸働きを立て直し、からだ全体のエネルギーを上げていきます。
【胃の不調の具体的な症状と傾向:胃腸が弱く、食欲不振、食後のもたれ感、悪心・嘔吐がある方に】
*六君子湯(リックンシトウ)
胃腸が弱く、食欲がわかない、みずおちがつかえ、疲れやすく、食後に胃もたれや吐き気、むかつきなどの症状がみられます。冷え性、下痢傾向の方にも効果があります。
主成分の“人参”で胃を温めながら胃内に停滞している「水」をさばいて胃腸の機能を高めるとともに“陳皮(ちんぴ)”で「気」を巡らせ元気不足を解消します。
【胃の不調の具体的な症状と傾向:冷え性で胃痛、腹痛があり空腹時に症状が悪化する方に】
*安中散(アンチュウサン)
胃弱でみずおちにつかえと痛みがあり、甘いものを好む傾向がある方の胃痛、腹痛、胸やけ、げっぷという症状。冷え性があり、空腹時にかえって痛みやもたれを感じる方。
生理時の冷えによる腹痛にも効果があります。
“桂皮(ケイヒ/シナモン)”や“延胡索(エンゴサク)”で胃を温めながら痛みを去り、胃酸を中和したり健胃作用の生薬で胃の不調を整えます。
処方名にある「中(チュウ)は「おなか」を指す言葉で、「おなかをを安らかにする」という意味です。
【胃の不調の具体的な症状と傾向:疲労倦怠感が強く、消化機能が衰えて食欲不振、疲れやすい方に】
*補中益気湯(ホチュウエキキトウ)
病後や過労、体質的に虚弱なために消化吸収機能が低下してスタミナ不足となり、疲労倦怠感、無気力、夏やせ、食欲不振が著しい方向けの漢方薬です
胃腸の機能を高め、食欲を益すことで「気」を増やし、「気」を上に持ち上げながら巡らせる“升麻(ショウマ)”や柴胡(サイコ)”という生薬で元気を補い、胃腸の消化吸収を整えるばかりでなく疲れを改善していきます。