【インタビュー】宮坂力先生! 2025年にペロブスカイト太陽電池は実用化できますか?

ペロブスカイト太陽電池をめぐっては2023年10月岸田首相2025年の実用化を表明、経産省も650億円に予算を上積みし開発に本腰を入れている。一方、ペロブスカイト太陽電池をめぐっては中国も実用化に向けて開発に力を入れている。そんな現状についてペロブスカイト太陽電池の発明者で、ノーベル賞候補とされる宮坂力桐蔭横浜大特任教授に聞いた。

小川純2024/04/18

10センチ角のペロブスカイト太陽電地

中国に勝つためのカギは日本人の職人気質と原料の埋蔵量


中国では24年中に1.2メートル×0.6メートルのペロブスカイト太陽電池モジュールを量産する計画が進められている。中国とは差があるが、開発競争に勝算はあるか。


宮坂:世界の情勢から見ると、もはや研究段階から工場ラインの生産設備での手法とかレシピを作る段階にあります。
前にいったように日本がやらなくてはならないことは企業の生産技術で性能を上げて歩留まりを上げることです。しかし、工場での生産はこれまでやってきた研究室のやり方で大量に生産できるとは限らず、極端な言い方をすると、ゼロから始めるようなものになるかもしれない。しかし、日本では、研究から生産まで技術を積み上げるやり方をしています。

一方、中国は日本のやり方とは逆で、基礎研究を飛ばして生産設備を使って作り始めるというやり方をしています。このやり方は開発のスピードは速いですが、多くの原料をムダにします。こんなことができるのは、資金力があるからです。

ただ、制作工程のレシピ、ノウハウが難しければ難しいほど、日本のほうが有利だと思います。これを作るのは職人技で、日本人はこうしたものを作ることが得意ですし、難しければ簡単にはマネできない。

しかも、ペロブスカイト太陽電池の原料のほとんどを日本は自国で調達できます。今はヨウ素の生産はチリが全体の6割、日本は3割ですが、ヨウ素学会の方の話では、チリではヨウ素の鉱物資源が将来枯渇する可能性も考えられると。また、世界の採掘可能なヨウ素の8割は日本にあるというのです。

中国がかなりの量のペロブスカイト太陽電池を作ろうとしても、日本などの地域から輸入せざる得ないために、こうした点でも日本は有利にあるといえます。


中国ではペロブスカイト太陽電地の基板をガラス、日本はフィルムと違いがあるがフィルムのメリットは何か。


宮坂:中国では、発電効率18%の1メートル×2メートルのペロブスカイト太陽電地が登場しています。ただ、これは基板がフィルムではなくガラスです。これを今年中に20%まで上げようとしてしいます。ただ、歩留まりについてはまだ低いようで、シリコン太陽電地の5倍のコストがかかっているということです。

一方、われわれが考えているのは基板をフィルムにしたものです。中国はフィルムを基板にすることにはあまり関心がありません。彼らからすると、今ある太陽電地に置き換えることが前提で、フィルムでは耐用年数が短いため必要がないと考えています。
しかし、基板がガラスだと重たくなり用途が限られてきてしまう。

例えば、ビルの壁に設置するにしても施工は大変ですし、地震などで外れたらどうなるかといったことを日本では考えます。
フィルムであれば交換も容易で、生産コストも低くなるので、耐用年数がある程度短い10年ぐらいでも交換すればよいという考え方もあります。こうしたフィルムの良さを中国では理解されていないのです。

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この記事を書いた人

小川純

小川純編集・ライター

週刊、月刊誌の編集記者、出版社勤務を経て現職。経済・事件・ビジネス、またファイナンシャルプランナーの知識を生かし、年金や保険、企業レポートなど幅広いジャンルで編集ライターとして雑誌などでの執筆活動。実用書、個人の自分史などの書籍編集を行っている。

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