「古民家」につきものな農地もまとめて一括売却に必要なこと

増え続ける空き家。こうした空き家には人気のある古民家も多いが、取り引きにやっかいな農地付の物件もあって……。

田中裕治2024/06/16

役所調査と現地確認で見えてきた大きなハードル

正式に依頼を受け、山梨県甲府市の現地調査に向かいました。
まずは市役所などでの調査を開始。そこで早速、以下の大きく3つの問題が出てきます。

1)売却物件全てが市街化調整区域内にあり、その中に農地も複数あり、農地の売買には農業委員会の許可が必要なこと
2)建築基準法で定める接道していないため、建物の建替え・増改築ができないこと
3)土地の一部が土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)に指定されていること

このほかにも河川法や砂防法等の規制を受ける土地、山間の農地については雑木林となっている囲繞地(いにょうち/公道に接していない「袋地」を囲んでいる土地)となっていることなども判明しました。
なかなか一筋縄ではいかない不動産であることを改めて認識させられました。

1日かけて役所の調査を終えて、翌日に物件の現地へと向かいました。

明治36年頃建築ということもあって、建物には土間や囲炉裏のあるのまさに古民家。その脇には蔵もあります。昔はこの古民家で2階が養蚕業をされていたとのことでした。

建物自体は古く、老朽化して床が抜けそうなところもありましたが、このまま朽ち果ててしまうには惜しい古民家でした。

玄関へのアプローチ(左上)/土間のある玄関(右上)/炉のある和室(左下)/床間のある広い和室(右下)

とはいえ、床の腐食や雨漏り、害獣被害があるため、現状のまま使うのは難しく、実際に住むためには多額のリフォーム費用がかかってしまうことはざっと見ただけでもわかりました。
それでも2階からは甲府市街を見渡すことができ、庭先ではバーベキューなどもできる、田舎暮らしを楽しむ環境が整っており、「当社で何とかせねば」と思いを新たにしました。
敷地面積が広く境界の数も多く、建物の間取りや状況調査をし、境界確認だけで、この日は日が暮れてしまいました。

地目変更で土地評価をアップ

役所での調査、現地確認を終え、で売却物件合計16筆のうち14筆が農地で、その農地の一部には建物が建っている、耕作放棄地、雑木林と状況はさまざま。
しかも、売却物件がある地域が市街化調整区域のため、農地の売買には予め農業委員会の許可取得が必要です。この許可を取得するのがとにかく大変です。そこで事前に農業委員会と農地売却のための協議を行いました。
その結果、農地14筆のうち5筆を宅地に、場所もわからない雑木林となっている3筆を山林に変更することで合意、非農地証明書を取得することになりました。

広い農地は耕作放棄地、雑木林となっていた

農地から農地以外への地目変更に向けて、農業委員会の指導のもと、依頼者に宅地に変更する部分の庭木の手入れや除草等をしていただきました。
そして、農地を宅地や山林に地目変更登記が完了。とはいえ、農地以外には使えない農用地は6筆があるため、売りづらい物件であることに変わりはありません。

しかし、農地を宅地化できたことで未接道だった土地を接道させることにつながり、土地価値をアップさせることもできました。その結果、建築基準法第43条の許可を取得することで建物の建築ができようになりました。

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この記事を書いた人

田中裕治

田中裕治株式会社リライト代表取締役

一般社団法人全国空き家流通促進機構代表理事
1978年神奈川県生まれ。大学卒業後大手不不動産会社に勤務したのち、買取再販売メインとする不動産会社に転職。その後、34歳で株式会社リライトを設立。創業以来、赤字の依頼でも地方まで出かけ、近隣住民や役所などと交渉。売れない困った不動産売却のノウハウを身につけてきた。また、神奈川県横浜市神奈川区で空き家を有志とともにで再生し、家族食堂など他世代交流拠点「子安の丘みんなの家」を運営している。
著書に『売れない不動産はない!』(叶舎刊)『困った不動産を高く売る裏ワザ』(ぱる出版刊)『不動産をうま~く処理する!とっておき11の方法』(ファストブック刊)がある。

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