引っ越しの際の「原状回復トラブル」――その原因と解決策

賃貸住宅のトラブルが増加傾向にある。その4割は「現状回復」だ。こうしたトラブルが増える原因と、その対策を探る。

大谷昭二2024/04/02

トラブルの注意を促す国民生活センターの冊子

トラブルを招く4つ因子

では、こうした賃貸住宅トラブルがなぜ発生するのでしょうか。
その原因は複雑に絡み合っていますが、主に以下の4つの要因が挙げられます。

1)賃貸借契約書における「落とし穴」になる貸主有利条項と曖昧条項の危険性
賃貸側に有利につくられる契約条項の問題があります。賃貸人には、貸主有利の契約条項や曖昧な例文的条項が記載された契約書に基づく契約締結の欲求があり、ともすれば賃借人にこれら貸主有利の条項を押し付けがちです。こうした条項が賃貸借終了時に問題を発生させることになります。

2)賃貸借契約の日本人特有の「曖昧さと思い込み」
賃貸借契約に関する契約当事者の誤解や思い込みから生じるトラブルです。賃貸人は独自の解釈や契約書で契約を迫り、賃借人もまた独自の思い込みや解釈で契約書に押印するという日本人特有の曖昧さと思い込みから生じるトラブルです。
賃貸人には、自ら課せられた説明義務を十分に尽くすことが求められるし、賃借人も契約内容を良く理解した上で行動すべきことが望まれますが、契約内容の曖昧さも手伝って双方が誤解したまま契約を締結している場合が極めて多いのが現実です。

3)賃貸借トラブルの泣き寝入り体質が招く負の連鎖
こうしたトラブルがなくならない要因は、賃借人の泣き寝入り体質が賃貸住宅トラブルの予防と救済を遅らせています。
建物の賃借にはどうしても賃借物件の磨耗や損耗が伴います。賃借期間が長ければ長いほどその傾向は強まります。
借主は明渡し時に精一杯の清掃をしたとしても賃借後の損傷等により価値の低下を余儀なくされています。これは借主側からすると大家に対する負い目の原因になって泣き寝入りもやむなしとの意識を生じさせます。その結果、真のトラブル解決に至らないまま、次の賃借人との間でも同じ問題が繰り返されることになるのです。

4)少額訴訟と素人大家の増加が招く新たな課題
いわゆる少額消費者事件の問題があります。そもそも賃貸住宅トラブルは、争いとなる金額が少額であることもあって、裁判費用や弁護士費用をかけてまで裁判に訴えたり、弁護士に依頼しようとする人達は少ないのが現状です。

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この記事を書いた人

大谷昭二

大谷昭二NPO法人日本住宅性能検査協会理事長/一般社団法人空き家流通促進機構会長/元仲裁ADR法学会理事

1948年広島県生まれ。住宅をめぐるトラブル解決を図るNPO法人日本住宅性能検査協会を2004年に設立。サブリース契約、敷金・保証金など契約問題や被害者団体からの相談を受け、関係官庁や関連企業との交渉、話し合いなどを行っている。

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