「分家住宅」の売却――“土地の縛り”のほどき方

農地関連の土地の処分でもやっかいなものが「分家住宅」だ。ほとんどの不動産会社に相談を持ち込んでもほぼ断られるという。そんな分家住宅をどのように売却するか、そのヒントをさぐる。

田中裕治2023/12/14

一見すると駅近の住みやすそうな物件

普通の戸建て住宅にしか見えないが……

売却の依頼を受けた物件は、駅からはバスを利用する田園地帯にある一戸建でした。境界標が一部不明で市街化調整区域の分家住宅のため、現状では建物の使用もできない建築不可物件でした。土地の地目も農地(畑)のままで、敷地内外に大量の残置物があります。

依頼者は、お父さんが亡くなり相続したこの住宅のある土地に、自宅を新築しようとしました。
しかし、新築の住宅を建てようと、ハウスメーカーに相談したところ、この不動産が市街化調整区域の分家住宅たったことが判明。依頼者自身では分家住宅の建替えの要件を満たせず、活用もできない。ただ維持管理費だけがかかるだけで、持ち続けることもできず売却したいという話でした。

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さらに詳しく話うかがうと、その物件はお父さんが住んでいた実家で、依頼者は〝普通〟の土地だと思っていたといいます。しかし、分家住宅とわかって、いくつかの不動産会社に売却の相談をしたところすべての不動産会社から「取り扱えない」と断られてしまったそうです。

開発許可不適合、用途変更不可、農地と三重苦の土地

こうしたお話をうかがったあと、市役所などでの物件調査の際、市街化調整区域で建て替え等の許認可をしている担当部署の方と再三、再四、「依頼者は相続人なので、建て替えをさせて欲しい」と協議を重ねました。
しかし、ご相談者が行政で定める開発許可基準に適合しないため、「建物の新築(建え替え)、建物の使用もできないということはどうにもならない」という回答が返ってくるばかり。さらに依頼者が第三者へ売却してもその買主は、売主が用途変更の許可要件を満たしていないため建物の使用、再建築はできないというということでした。

また、法務局にて土地の権利関係を調査すると土地の地目が「畑」のままということもわかりました。地目が「畑」などの農地ままで古家を解体してしまうと、農地法の許可が必要になり、さらに売却が難しくなります。まさに所有者にとっては二重苦、三重苦の不動産です。

“土地の縛り”を一つひとつほどく作業

そこで建物がある状態で農業委員会に「非農地証明書」の申請を行い、土地家屋調査士に協力してもらい、地目を「畑」から「宅地」に変更しました。

さらに調べていくと、隣地にある第三者所有の地下車庫の固定資産税が、なぜか依頼者に課税されていたことが判明。これを解消するために役所及び隣地所有者と協議を行い、隣地の車庫の固定資産税を隣地所有者に課税がされるように手続きを行い正規のかたちに戻しました。

こうした行政との間で行う地道な調査、変更、測量と境界標の設置を行いながら、残置物の処理など売却するための準備を進めました。その間もいくつかのトラブルがあったものの問題を一つひとつ問題を解消、改めて売却活動の開始することになりました。

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この記事を書いた人

田中裕治

田中裕治株式会社リライト代表取締役

一般社団法人全国空き家流通促進機構代表理事
1978年神奈川県生まれ。大学卒業後大手不不動産会社に勤務したのち、買取再販売メインとする不動産会社に転職。その後、34歳で株式会社リライトを設立。創業以来、赤字の依頼でも地方まで出かけ、近隣住民や役所などと交渉。売れない困った不動産売却のノウハウを身につけてきた。また、神奈川県横浜市神奈川区で空き家を有志とともにで再生し、家族食堂など他世代交流拠点「子安の丘みんなの家」を運営している。
著書に『売れない不動産はない!』(叶舎刊)『困った不動産を高く売る裏ワザ』(ぱる出版刊)『不動産をうま~く処理する!とっておき11の方法』(ファストブック刊)がある。

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