この記事でわかること
評価額に掛けられるようになった「区分所有補正率」の計算式
試算するとタワマンは2.19倍、築25年の中古も1.18倍に
評価額が上がっても、現金より4割ほど有利な理由
補正の対象にならないマンション
マンションの持ち主がいまやること2つ
相続税の対策として、都心のタワーマンションの購入。この手法は長らく有効だった。現金で1億円を持っていれば1億円に課税されるが、同じ1億円でマンションを買えば、相続税評価額は3000万円ほどになる。差額の7000万円には課税されない。この乖離を使うのが、いわゆるタワマン節税だ。
国税庁はこれを問題視し、2024年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から新しい評価方法を適用。それから3年近くが過ぎている。この手法の効果はどこまで失われたのだろうか。
通達の計算式に実際の数字を入れて確かめてみた。
先に結論を書いておく。タワマンの評価額はおおむね2倍前後に上がったが、やはり現金で持つよりは有利な状態が続いている。そして影響は、タワーマンションを持っている人だけにとどまらない。
いったい何が変わったのか
評価方法が変わったことでどうなったかというと、マンションの評価額に「区分所有補正率」を掛けるようになった。従来の評価額そのものの計算方法は変わっていない。そこに補正率という係数が追加された。
国税庁の法令解釈通達では、まず評価乖離率を次の式で求めることになっている。
評価乖離率 = A + B + C + D + 3.220
| 記号 | 中身 | 係数 |
| A | 1棟の区分所有建物の築年数 | × △0.033 |
| B | 1棟の区分所有建物の総階数指数 | × 0.239 |
| C | 専有部分の所在階 | × 0.018 |
| D | 敷地持分狭小度 | × △1.195 |
総階数指数は総階数を33で割った値で、小数点以下第4位を切り捨て、1を超える場合は1とする。地階は総階数に含めない。敷地持分狭小度は敷地利用権の面積を専有部分の面積で割った値で、小数点以下第4位を切り上げる。築年数は建築の時から課税時期までで、1年未満の端数は1年として数える。
次に、評価乖離率の逆数である評価水準を出す。
評価水準 = 1 ÷ 評価乖離率
この評価水準がいくつになるかで、扱いが3つに分かれる。
| 評価水準 | 区分所有補正率 | 意味 |
| 0.6未満 | 評価乖離率 × 0.6 | 評価額が上がる |
| 0.6以上1以下 | 補正なし | 従来どおり |
| 1超 | 評価乖離率 | 評価額が下がる |
要するに、市場価格に対して評価額が6割を下回っているものは、6割の水準まで引き上げる。これが制度の骨格である。市場価格の6割までは認めるという線引きだ。全部を時価にするわけではない。
実際に計算してみるとどうなるか

築5年・40階建ての30階、敷地持分狭小度0.15の住戸を想定。都心のタワーマンションとして無理のない数字だ。
・A = 5 × △0.033 = △0.165
・B = 40÷33=1.212 → 1を超えるので1 → 1 × 0.239 = 0.239
・C = 30 × 0.018 = 0.540
・D = 0.15 × △1.195 = △0.179
合計に3.220を足すと、評価乖離率は3.655になる。評価水準は1÷3.655で0.274。0.6を下回るので、区分所有補正率は3.655×0.6=2.193だ。
従来の評価額が3000万円だったなら、6579万円になる。2.19倍である。
では、タワーマンションでない普通の物件はどうか。築25年・8階建ての3階、敷地持分狭小度0.45で計算する。
・A = 25 × △0.033 = △0.825
・B = 8÷33=0.242 → 0.242 × 0.239 = 0.058
・C = 3 × 0.018 = 0.054
・D = 0.45 × △1.195 = △0.538
評価乖離率は1.969、評価水準は0.508。これも0.6を下回るので補正率は1.181になる。従来2000万円なら2363万円だ。
| 物件 | 評価乖離率 | 評価水準 | 補正率 | 評価額の変化 |
| 築5年・40階建の30階 | 3.655 | 0.274 | 2.193 | 3000万円→6579万円 |
| 築25年・8階建の3階 | 1.969 | 0.508 | 1.181 | 2000万円→2363万円 |

ここが見落とされやすい点だ。この改正はタワーマンションだけを狙い撃ちにしたわけではない。築25年の8階建てという、どこにでもある中古マンションでも評価額は2割近く上がるのだ。「タワマン節税の封じ込め」と報じられたものの、影響を受けるのは分譲マンション全般である。タワマンでないマンション所有者もちゃっかり実質増税されるようになったというわけ。
タワマンはいまなお現金よりは有利なことに変わりはない
数字を見ると評価額は大きく上がった。ただ、これで節税効果が消えたかというと、そうではない。
先ほどのタワーマンションの例に戻ると、評価水準0.274ということは、従来の評価額3000万円は市場価格のおよそ27%だったという意味だ。市場価格は逆算すると1億964万円ほどになる。改正後の評価額6579万円は、その6割である。
つまり、1億964万円で買った住戸が6579万円と評価される。現金で1億964万円を持っているより、4385万円ぶん評価が低い。乖離は縮んだが、消えてはいない。制度が6割という線を引いた以上、4割ぶんの差は残り続ける。
ここは正確に理解しておきたい。国税庁は乖離をゼロにしたのではなく、乖離の幅に上限を設けた。市場価格の6割を下回る評価は認めない、という設計だった。
同じ1億964万円を持っている場合で並べると、差ははっきりする。
| 持ち方 | 相続税評価額 | 現金との差 |
| 現金で持つ | 1億964万円 | ― |
| マンション(改正前の評価) | 3000万円 | △7964万円 |
| マンション(改正後の評価) | 6579万円 | △4385万円 |
改正で失われたのは、7964万円と4385万円の差である3579万円ぶんの圧縮効果だ。残った4385万円は、いまも有効である。
もっとも、これは評価額の話でしかない。マンションは売らなければ現金にならず、値下がりもする。相続人が複数いれば分けにくいという問題も残る。評価額が下がることだけを見て買うと、納税資金が用意できないまま分けられない資産を抱えることになる。これは改正前から変わらない。
低層のマンション、アパートは対象から外れる
すべての物件がこの通達の対象になるわけではない。次のものは適用外だ。
・構造上、主として居住の用途に供することができるもの以外
・区分建物の登記がされていないもの
・地階を除く総階数が2以下のもの
・1棟の区分所有建物に存する居住用専有部分1室の数が3以下で、そのすべてを区分所有者またはその親族の居住の用に供するもの
・たな卸商品等に該当するもの
2階建てのアパートや、1棟まるごと自分と親族で使っている小規模な建物は外れる。逆にいえば、3階建て以上の分譲マンションはほぼ対象と考えてよい。
普通のマンションでも判断が必要な人
この改正が効くのは、相続財産にマンションが含まれる人と、これから相続対策を考える人である。やることは2つだ。
1つは、手持ちの物件の補正率を計算しておくこと。国税庁は「居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書」をExcelファイルで公表している。登記事項証明書から築年数・総階数・所在階・敷地権の割合を拾って入力すれば、補正率が自動で出る。申告書に添付する様式そのものなので、ここで出した数字がそのまま使える。
もう1つは、すでに立てた相続計画を見直すこと。2024年より前に試算した評価額は、いまの制度では通用しない。遺産分割の方針や納税資金の手当てを評価額ベースで組んでいたなら、前提が変わっている。とくに2.19倍という水準を見れば、納税資金が足りるかどうかの結論は変わる可能性がある。
タワマン節税は死んでいない。効き目が半分ほどになり、そのかわり普通のマンションにも薄く効くようになったというのが、3年近くたったいまの姿なのである。
※評価乖離率・区分所有補正率の算式と適用対象外の範囲は、国税庁「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」およびタックスアンサーNo.4667による。試算の物件は架空のもので、実際の評価額は物件ごとに異なる。
【合わせて読みたい】
・節税効果がなくなっただけでは済まない、タワーマンションの落とし穴
・精算課税を選んだ8万人、税を払ったのは6000人だけ 贈与2年目の実像
・不動産投資――もしものときに失敗しない相続準備のすすめ







