パワーカップルの異業種結婚で得られるもの、失うもの――コーディネイトした男女の関係

自分と違った価値観や環境にあるパートナーを求めて、異業種の婚活パーティーをきっかけに結婚したパワーカップル。コロナ禍の中で生じた異業種カップルが直面した価値観の違いによる不一致。

北 淑2023/10/04

夫婦のかたちを変えた新型コロナ

コロナ感染から半年後、妻のクリニックは経営を持ち直しますが、男性のほうと言えば、音楽関係者との連絡を絶ったこともあって、仕事の依頼は減少したまま。
そんな矢先、妻から突然、離婚を切り出されます。

その理由は、夫婦の間の対等な関係が崩れたからというものでした。
夫は政府からの給付金や貯蓄を切り崩し、住宅ローンは支払うことができていたのですが、生活費の大部分を妻の収入に頼り切っていたことに、妻が耐えきれなかったのだといいます。

妻から住んでいる共有名義のマンションの価格が、じわじわと値を上げていることから、すぐに売却したいと言います。
そして、今ならアンダーローンだから、その差額分を扶養的財産分与とするので、しばらくは生活できるだろうと男性に提案してきます。つまり、男性は妻から三下り半を突きつけられてしまったのです。

深刻なコロナの後遺症を抱え、仕事の先行きが見えないなか、妻から離婚をつきつけられ、住んでいる家の売却を迫られる――。

夫にとってこれ以上の悪夢はないと心痛を察していると、意外な答えがかえってきます。「妻の提案は願ってもないチャンスだった」というのです。
男性はなぜ、そんな思いになったのか。

Photo 123RF

見ていなかった「素」のままの姿を知るきっかけ

男性とは3回のカウンセリングを行い、そこで、なぜ「妻の提案は願ってもないチャンスと思ったのか」男性はありのままを語りました。

男性 「音楽から遠ざかっていた1年余りの間、妻とは異業種でよかったと思うことがたくさんありましたね。
異業種だから、収入が激減したときでもリスクが分散できた。もし、妻が同業者なら、妻にだけ仕事の依頼が舞い込むなんてことが、何度も続いたら耐えられなかったですね。
それに感染リスクに日本中が神経質になっていた時期は、『医師を助ける夫』『演奏家を支える妻』って人からいわれましたしね」

――周囲から羨望の眼差しを向けられていたこともあった……

男性 「そう、それに家事はさほど嫌いではなかったです。
時間ができたので、その時間は料理をする時間にしたのですが、妻はもともと食事にはこだわりがなく、ジャンクフードが好きなんです。なのでよく、唐揚げを買って帰宅してました」

――せっかく、料理ができてても、自分の好きなものだけを買ってくるんですね。

男性 「ええ、ガツンとしたもので最後はシメたいとか言ってね。ちょっと、寂しいですかね。まあ、家庭にいる女の人に気持ちが分かりましたね」
と男性は笑いながら話します。そして、

「あと、彼女はそのそも音楽に興味がない。それより、お笑い番組が大好きなんです。帰宅するなり、ため込んだ録画をひたすら観ている。
なので、ベースの練習は妻にいない昼間にして、夜は耳を休めるために耳栓をして本を読んでいました」

――価値感が合わない。そう分かったとき、どんな気持ちになりましたか?

男性 「そう、忙しくてすれ違いの生活だったから、うまくやれていたんだってわかりました。経済的にリスクを分散できても、一緒に生きることはできないのかもしれないと。
そんなときにコロナに罹って、手のしびれがとれない。もし、このまま演奏家をやめることになったら、今まで考えたこともない想像をしたとき、妻との間には埋めることのできない溝があることに気がついたんです」

――埋めることのできない溝というのは……

男性 「些細なことですよ。自分のわがままです。演奏がなくなったからか、家で練習をしているとき、ふと今の音はどうだったか、聞いてくれる相手がほしかったり、音楽について無性に話しがしたかったですね」

――それを伝えることはしなかったのですか?

男性 「しなかった……ですね。何か決定的なことをしたくなかった。そうやって自分を守っていたかもしれません」

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この記事を書いた人

北 淑

北 淑公認心理師 博士(医学)

大手不動産会社で産業保健活動を行う一方、都内で親子や夫婦の関係改善のためのプライベートカウンセリングを実践している。また、最近は、Webカウンセリングも行い、関東甲信越や東北地方の人たちとのセッションにも力を入れている。

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