そこで私は「ここまでの話は、自分ではうまく話せていると思いますか?」と尋ねると、
「いいえ、話し過ぎているのか、北さんが、無表情なので……ちょっと不安ですね」
どうも、真剣に耳を傾けていても、私の顔はその人を不安にさせてしまったらしい。
とくに、年上の女性に対して緊張が強くなるという。
最近は風俗嬢などの若い女性もお客さんとして来られることも多いようですが、自分はクラブやスナック店を何軒も経営しているような年上の女性が多かった。特定のお客さんで売上げを狙っていたので、失敗したくない、相手の期待に応えなきゃ、ホストとして失格と厳しく指導されていたこともあったのかなと思いますね。
毎日、仕事前に前日の成績とその日の目標の発表する会議があるですが、元来、負けず嫌いなところがあって、日増しに自分を強く追い込むようになっていきました。
「知らなかった、まるで不動産会社の営業会議と同じなんですね」と、驚いたような口調というと、自分はほかを知らないから、わからないですけれど。と遠慮深げに返してきた。
両親と3人暮らし――息苦しい生活
社交不安の人は自分でもおかしいと考え過ぎだとわかっていても、周囲からの否定的な評価を怖れ、失敗をしたり、恥をかいたりすることを避けて、家から出られなくなる人は少なくありません。
男性の家族は元教員だった父親と、書道家だった母親で、今もこの両親と3人で暮らしています。男性の几帳面な性格、麗筆な字、理想主義なところは、ご両親譲りだったと想像がつきます。しかし、父親とは、家でもほとんど会話をしないといいます。
「自宅にいても息苦しく感じることはありませんか?」
「正直、そう思いますね。ホスト時代の金が僅かに残っているので、それを家に入れているとはいえ、やっぱり、収入の落差も大きい。ただ、昔から本はよく読むので、それが救いです。カウンセリングに来たのも本を読んで、それで受けよう思ったのです」