保護猫のいるオフィス、猫カフェ……人にも猫に優しい運営方法

店先でのんびり過ごす「看板猫」の姿は、お客の気持ちをほのぼのとさせるもの。そんなアイコンとしての猫の人気は高く、保護猫活動の1つとして「猫と暮らせる高齢者施設」「オフィス猫」「猫のいるネットカフェ」などのビジネスの話が多く持ち込まれている。そこで実際に運営するに見落とせないことがある。必要なこととは何か。

山本葉子2023/10/02

命が助けられると前のめり…しかし問題も

すでにあるさまざまな事業の場所と猫たちの居場所を組み合わせるご相談は夢があって、ご提案者も関わる方々も「社会貢献事業にもなりますよね」と、お話をくださる方は、期待で瞳がキラキラしていらっしゃいます。また、そういう事業内容のテナントさんにビルを貸したいオーナーさんなども「不動産活用で猫たちの命が助かるなんて素晴らしいよね」と前のめりです。

猫は通常、大変静かに過ごせる動物です。トイレの粗相もほとんどなくキチンと定期的に清掃すればにおいもありません。それぞれのテリトリーを緩く持って仲良く暮らすことが可能です。ゆったりとくつろぐ猫たちを眺めながら静かに過ごせる施設なら理想的な気もしますが、この形態の運営にはどうしても必要なものがあると思います。
それは「適正な飼育者が常駐すること」です。

硬い言葉ですが、猫や犬などの伴侶動物が生活する場所には「その動物を適正に飼育できる能力のある人がいる」ことが必須です。

当たり前ですが、生き物は体調を崩すことがあり、それが多頭飼育であればあるほど早期発見、早期治療が必要になります。また、猫同士の関係にも気を遣いながらの、メンタルケアも必要になります。
経験のある人が真剣に丁寧に向き合って飼育にあたることで、猫たちは生き生きと過ごすことができます。

猫たちを守るためのバックヤード

これには「バックヤード機能としての保護団体があること」が必要です。
猫たちの体調不良や、年齢が上がっていくことによりその場所での飼育が難しくなった場合に、一時的な治療をしたり、ホスピスのように緩和ケアをしながら暮らせる場所が必要になります。
随時受け入れが可能で医療体制も備えている保護団体があることが理想ですし、戻ってきた猫たちのいた場所に新たに保護猫を託すこともできます。体調不良に気付くのが遅れたり、ケアがうまくできなかったり、その場で暮らすことが困難になっても行き場がないような運営では、最初に掲げた”保護猫たちの居場所を作る”のお気持ちとはかけ離れたものになってしまうでしょう。

私の運営しているNPO法人東京キャットガーディアンでは「猫付きシェアハウス」の企画・運営管理業務を行っています。

猫付きシェアハウスの猫たち(Photo NPO法人東京キャットガーディアン)

共用部分(リビングなど)を中心に保護猫たちが自由に暮らしています。毎日のお世話は住人の方々の担当。入居に際しての審査に私どもも参加して「適正な飼育者であるかどうか(なれるかどうか)」の判断をさせていただき、毎日のサポートも行っています。
猫たちの体調不良や飼育に関しての相談は、電話やメールで。猫同士の相性が悪くなったり、そこで暮らしていくことが困難な状態になった場合はすぐに団体が引き受け、空いた場所には住人の方々と相談しながら新しい保護猫の受け入れをご提案します。

保護猫たちとのコラボをお考えの企業さん、オーサーさん、ぜひ保護団体とよい形でタイアップしていただけたら、と思います。

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この記事を書いた人

山本葉子

山本葉子NPO法人東京キャットガーディアン 代表

東京都生まれ。2008年猫カフェスペースを設けた開放型シェルター(保護猫カフェ)を立ち上げ、2019年末までに7000頭以上の猫を里親に譲渡。住民が猫の預かりボランティアをする「猫付きマンション」「猫付きシェアハウス」を考案。「足りないのは愛情ではなくシステム」をモットーに保護猫活動を行っている。著書に『猫を助ける仕事』(光文社新書)などがある。

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