令和の日本は、元気なうちに住宅ローン完済ができなくなった!?

高齢化が進み長生きができるようになったのはよいが、それにともなって住宅ローンの完済年齢も上がっている。その年齢も男性の健康年齢に迫る73歳。老後はゆっくりと悠々自適な生活は、もはや夢になってきたのか。

浅野夏紀2023/09/06


「老後」になっても住宅ローンが完済できない理由

では、なぜ、70歳を超えるような住宅ローンを抱え込むようになったのだろうか。

その答えの1つが、晩婚化ということがある。これに加えて、住宅ローンの借入額が増えていることも見逃せない。

日本銀行のマイナス金利政策で、金利変動型の住宅ローンは最優遇されると、年利1%を切ることがあり、この結果、総支払額が減る。
例えば、年利3%、35年で3000万円の住宅ローンを組んだ場合の支払総額は、およそ4850万円。これが年利1%になると、およそ3557万円で、その差1293万円になる。
言い換えれば、同じ与信の人でも1300万円も多く借りられる。

実際、住宅ローンの平均融資額は過去20年間で約1900万円から1200万円も増えて約3100万円に増えている。つまり、ローンにかかる支払金利が減ったとはいえ、住宅価格が上昇してしまい低金利のメリットは相殺されてしまったということになる。

日銀の異次元の超金融緩和は消費に向かわず、企業は借金返済と内部留保に使い、だぶついた金は不動産に回った。
金利が低くいとなれば不動産価格が上がる→借入額増えるというのは自明の理だ。

こうした諸々が要因となって、60歳時点のローン(債務)残高は2000年の700万円から1300万円と急増させた。もちろん、60歳定年そのものがなくなりつつあり、基本的に年金受給開始は65歳になっているので、65歳までは収入があれば、やりくりは可能だろう。
というより、現実として還暦になってもローンも仕事もやめられない。


「残価設定住宅ローン」など老後向け住宅ローンも登場

住宅ローンを組む際に団体信用生命保険(団信)をつければ、契約者が死亡したり、高度機能障害になっても保険でカバーされるから、「70歳以上で住宅ローンを抱えることを過度に恐れるべきではない」という指摘もある。しかし、借金を抱えたまま死ぬことに変わりはない。

加えて、現状ではフラット35の完済期限が80歳になっているが、さらに5歳程度の延長を求める声もある。さらに、長期優良住宅には最長50年融資の「フラット50」や、60歳以上を対象に、死亡時までは利息の支払いのみで死亡後に担保物件を売却して元本を返済する「リ・バース60」も登場している。
まさに「虎は死して皮を残す、人は死して住宅ローンを残す」といったところか。

さらには、ここにきてじわりと広がってきているのが「残価設定住宅ローン」だ。23年3月には三菱UFJが取り扱いを開始している。

メリットは、1)月々の返済額が少ない、2)残価での買い取り保証がある、3)住み替えがしやすいということがあげられている。

一方、デメリットは、1)設定年数の満期後に新たな資金が必要になる、2)80歳までローンを延長すると通常のローンよ総支払額が多くなる可能性がある、3)設定額で買い取ってもらうためにメンテナンスに費用がかかる、などがある。

いずれにしても高齢になっても消えない住宅ローン問題の解決策は見つからず、今後、老後住宅ローン破産問題が出てくることがありそうだ。

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この記事を書いた人

浅野夏紀

浅野夏紀経済アナリスト・作家・不動産小説家。

1963年生まれ。東京都心在住。オフィス・ホテル・商業施設・公有地・借地等の不動産の分析、株など資産市場の分析に詳しい。住宅業界のカリスマ事業家が主人公で、創業者まで徹底的に切り捨てる政権の歴史的な不良債権処理の暗闘局面などを明かした『創業者追放~あるベンチャー経営者の風雲録』などの作品がある。

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