マンション価格高騰で広がる「AI自動査定」のカラクリ

大都市圏の中古マンション価格が高騰の中、広がっているのが「ネット査定」だ。業者にとっては営業で回ったり、チラシを配るより労力、コストが削減できる。一方、査定を依頼する諸費者側もお手軽とwin-winだという。そんなネット査定のカラクリとは。

内外不動産価値研究会2023/09/05

レインズの情報が使えず、精度はイマイチ

そんなAI自動査定だが、弱点もある。
日本では中古物件の正確な売買価格を把握するのは難しく、正確に補足できるのは新築の売り出し価格になる。
 世界的に見れば日本は米国や豪州など不動産先進国に比べて不動産情報のオープン化が遅れている「情報開示途上国」なのだ。そのため日本の不動産業界は、世界的不動産情報会社「ジョーンズラングラサール(JLL)」による国際的な不動産情報の「透明度」調査でも毎年10位以下に甘んじている。

 しかも、AI自動査定で問題になるのが、国交省の指定流通機関である、不動産流通機構が運営する「レインズ」の内部に登録された情報が使えないこともある。
 肝心の成約価格の入手が難しく、査定精度が低くなるという点がAI自動査定のネックになっている。
AIがマンションを査定するためには、過去の売買記録を学習する必要があるが、公的なサイトで膨大な情報を抱えるレインズのデータ抜きでは情報量と正確性が限られるだろう。もっともサンプル数は増えているので、徐々に制度は上がっているという見方もあるが。……。

査定価格が実際の価格より2~3割高くなるわけ

 レインズ利用ガイドラインでは、「機構(レインズ)から取得した登録・成約情報を情報サービス会社に提供する」などと具体的な違反事例があげられている。つまり、厳しい規約により、AIの学習にはレインズが使えず、情報開示の恩恵は直接的に消費者には及んでいないようだ。AI自動査定は過去の売買記録が使えない。もちろん、レインズを経ない取引もあり、レインズデータが森羅万象の価格情報を握っているわけではないが、このデータを使えないのは厳しい。

 結果的にマンションのAI自動査定は、クローニングしやすい新築時の価格、中古マンションのは売り出し価格(売る側の希望価格)に頼っているため、実際の成約価格との誤差は最大で2割(築浅物件)から3割以上(30年以上の物件)とも言われ、ばらつきが多い。

 それでもネット広告の「中古物件の高騰で、500万円高く売るのも夢じゃない!」という文言に誘われて、定期的に各社の査定を受ける前出の会社員のような消費者も多い。
 もちろん、査定機能が似ていても、複数のサイトに登録することで、それぞれの査定価格のばらつきをならして価格トレンド(暴騰の傾向)などの参考にする顧客もいる。

しかし、注意が必要なのはサイトによって得意なエリア、不得意なエリアもある。そのサイトの系列のデベロッパーが売った物件で、そのデベロッパー系の仲介会社が中古取引も強いという「得意物件」もあるからだ。
AI自動査定はあくまでも参考価格として鵜呑みにせず、実際に売却する際は、当たり前のことだが複数の業者から合い見積もりを取ること重要だ。

 AIにデータを入力する深層学習(ディ―プ・ラーニング)は過去の数値なので、未来の予測は、人間の方が優れている場合もある。もちろん、プロの予測がベストとは限らない。いすうれにしても、業者とAIの“口車”にはあまりのらないほういい。

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内外不動産価値研究会

都市開発・不動産、再開発等に関係するプロフェッショナル集団。主に東京の不動産についてフィールドワークを重ねているが、再開発事業については全国各地の動きをウォッチしている。さらにアジア・欧米の状況についても明るいメンバーも参画している。

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