不動産選びの「ノンフィクション・バイブル」
東京23区の新築マンションの平均価格が1億円を超え、もはや普通の一般庶民にとっては手の届かない存在になってしまった。
これはアベノミクスと、それに応えるかたちではじまった日銀の異次元の超低金利政策によるものだ。
しかし、日本経済は平成バブル崩壊から30年あまり、ほぼ成長が止まったままということもあって、これを問題視すること、また、テレビ、新聞といったマスコミは、この根本的な原因について検証しようという動きはない。
むしろ、株価が4万円台になったこともあって、「安いニッポン」を喧伝し、値上げによるインフレによって、あたかもかつての高度経済成長期の幕開けといわんばかりだ。
本書『2030年不動産の未来と最高の選び方・買い方を全部1冊にまとめてみた』は、そのタイトルからすると「失敗しないマイホーム、マンション選び」という不動産投資本を装ってはいるが、その内容は政府、日銀、大手デベロッパーによる平成バブル崩壊から、令和になって大きく膨らんだ不動産バブルの生成過程とその検証を行った衣の下から鎧がのぞく骨太なノンフィクションだ。
本書の著書は、朝日新聞の経済記者として平成バブル前夜からその頂点、そして崩壊を目の当たりし、その後の30年間の不動産業界をつぶさに取材してきたジャーナリスト。本書のほかに不動産関係の著書も多い。
そんな著者がこの35年を超す不動産の取材を通じマイホームの戦略的な売買(サンドイッチ売買法ほか)の方法などをていねいに分析。さらに日銀とアベノミクスの不動産市場との不可分な関係について大胆に検証した一冊だ。
とくに霞ヶ関、東京都庁、大手デベロッパー、浦安、日本橋、大丸有(大手町・丸の内・有楽町)、築地などに通い詰め、取材を重ねてきた。そして、東京23区の新築マンションの平均価格が1億円を突破した背景にある日本独特の不動産市場の地層を岩盤まで掘り下げている。
具体的には公園や学校など容積率の低未利用地がどのようにデベロッパーらの手で開発されるのかについて、都市計画審議会がどのような役割を演じ、住民不在のまま決定されるか実情などがつぶさに記されている。