「共有名義」自分の持ち分だけの売却は可能か? そのデメリットとは?

相続の際に一旦は不動産を「共有名義」にしたものの、あとになって売却を考える人は多い。しかし、売却は全員の同意が求められる。その際、自分の持分だけを売却をすることが可能なのか。自分の共有部分だけを売却することによるデメリットとはなにか。

田中裕治2023/09/01

■合理性より感情が優先する相続トラブル

まだまだ住むことができる戸建てだが

依頼を受けた神奈川県横浜市の案件も相続のトラブルが原因になったものでした。
相談に来られたのは2人姉妹の妹さんで、お母さんが元気なときはとても仲がよかった姉妹ということでした。しかし、そのお母さんが亡くなり遺産分割で意見相違が原因になって揉めてしまったというのです。
結果的に建て替えができない自宅の持ち分を2分の1ずつに分けて、共有名義としました。そして、相続が済んだあとは一切の連絡も取っていないという状況になってしまったといいます。

それから1年ほど経つとお姉さんが自分の持ち分2分の1をある法人に売却されました。そのため相談者の妹さんも所有する持ち分2分の1の売却をいくつかの不動産会社に依頼したそうですが、建て替えができないなどの問題もあり、持ち分だけでは売れないと断られたということでした。

素直に考えればお姉さんが売却した法人に売却すればよいのですが、その法人とは交渉もしたくないといいます。そのうえで、わずらわしいことは一切なしで、持ち分だけを処分(売却)したいということでした。
依頼を受けて調査したところ、最も大きな障害は接道状況にありました。そのほかにも隣との境界標が不明な部分が多かったり、建物内に大量の残置物があるなどの問題もありました。しかしながら、これらの問題は解決できないものではないと判断。

生活のあとがそのまま残る室内

依頼者と協議を行い、依頼者(売主)の「契約不適合責任免責(瑕疵担保責任免責)」「設備の修復義務免責」「残置物の所有権の放棄」「境界非明示」などを契約書に記し、当社が購入しました。

■決着までにかかるのは費用だけではない

購入後、そのままではどうにもならないため、当社では弁護士を立ててお姉さんが売却した法人を相手に共有物の分割訴訟を開始し、最終的に「競売による売却」で決着させました。

これは裁判所の判断で当社が所有している持ち分と、もう一方の法人が所有している持ち分について競売で売却するようにと判決が示され、判決通り競売することになりました。こうした訴訟では裁判所での処分方法はケースバイケースになりますが、今回のケースでは、計画していたとおり「競売で売却実施」というかたちで終わらせることになりました。
競売では建て替え不可、境界標も一部なく、残置物がある状態でしたが、およそ750万円で売却(応札)することができました。
ただ、最終的に処分できるまでには約2年、加えて弁護士費用など相応の費用がかかりました。

このケースのポイントは、「相続トラブルに勝者はいない」ということです。
自宅の相続については姉妹それぞれの思いがあって意見が合わなかったわけですが、結果的に姉妹それぞれ別々に売却したことで、売却価格が減額されてまいました。最初から2人で話し合って、同時に同じ買主に対して売却していれば、持ち分だけの価格ではない、きちんとした価格で売ることができたはずです。
相続では感情的なことも入ってくるため、冷静になれない場合もあります。しかし、不動産に関しては感情的になってしまうと冷静な判断ができず、大きな損をしてしまうことが多いのです。こうならないためにも、相続人同士で事前に話し合いをしておくことがとても重要になると思います。

『売れない不動産はない!』(田中裕治著/叶舎刊)より

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この記事を書いた人

田中裕治

田中裕治株式会社リライト代表取締役

一般社団法人全国空き家流通促進機構代表理事
1978年神奈川県生まれ。大学卒業後大手不不動産会社に勤務したのち、買取再販売メインとする不動産会社に転職。その後、34歳で株式会社リライトを設立。創業以来、赤字の依頼でも地方まで出かけ、近隣住民や役所などと交渉。売れない困った不動産売却のノウハウを身につけてきた。また、神奈川県横浜市神奈川区で空き家を有志とともにで再生し、家族食堂など他世代交流拠点「子安の丘みんなの家」を運営している。
著書に『売れない不動産はない!』(叶舎刊)『困った不動産を高く売る裏ワザ』(ぱる出版刊)『不動産をうま~く処理する!とっておき11の方法』(ファストブック刊)がある。

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