節税効果がなくなっただけでは済まない、タワーマンションの落とし穴

物件の実勢価格と相続税評価額の差を利用した相続税の節税対策の有効手段として活用されえきたタワーマンション。しかし、2023年6月、国税庁はこのタワマン節税を防ぐルールの見直し案を公表し節税メリットがなくなった。そればかりか中古のタワマンは大規模修繕費用もあり、その負担が増える可能性もある。

浅野夏紀2023/09/01

タワマン問題噴出は、これからが本番か?

15年から12年に一度は大規模修繕が行われる

■タワマン問題噴出は、これからが本番か?

そんな長期修繕を無事に終えたタワマンは、全国的に見ても多くはない。そうした物件でも長期修繕費の積立金、および、トータルの積み立て累計額が十分とはいない物件もあったようだ。

「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(国土交通省/令和5年4月追補版)によると、1㎡あたりの20階未満/5000㎡以上~10000㎡未満マンションの修繕積立金平額は1か月あたり200円~330円なのに対し、20階以上になると1㎡あたり240円~410円で、タワマンの場合は設備に違いが多いため一概に言えないが、修繕積立金がこれよりも低ければ足りなくなる可能性が高い。しかも、これには駐車場の修繕積立金は入っていない。

■新築タワマンは15年で売却すべき――その根拠

建築後、20年目を迎えるタワマンが次々し登場し、相続税の節税効果がなくなる中でも中古のタワマン価格はいまも高値を維持している。こうした事実が周知されれば、建築後10年~20年のタワマンの相場は下がってしまうものもあるはずだ。

いまなおこうした「不都合な真実」を知るのは、施工したゼネコンや販売した不動産会社(デベロッパー)だけ。だれもあえては口にしない。

タワマンに限らず、マンションの修繕積立金はなるべく低めに弾くのが業界の悪しき習慣。タワマンは解体や建て替えされたトラックレコード(履歴)がない。加えて、築後15年~20年目までの大規模修繕の履歴(総費用)などの実例や公開情報も少ないため、中古のタワマンを売る側も買う側もそうした点を、中古価格にどう反映すればよい明確な基準はないようだ。

タワマンに限らず、マンションは中古であってもおおむね10年前後は住宅ローン減税があることが多い。加えて、人気のタワマンの価格は土地の希少性もあり、値上がりか、ほぼ横ばいの物件が少なくない。こうしたことから建物の減価償却の関係から築後10~20年目あたりを境に相場が下がる。

■中古マンション購入で見逃せないポイント

そして、15年~20年の間に行われる大規模修繕工事で大きな費用がかかり、工事後多くの管理組合では、修繕費を使い切ってしまうのが現実だ。しかし、日本ではタワマンに限らず、通常のマンションでも、建物の傷み具合や施設、管理組合の修繕積立金の財務データなどが第三者(買い手側)に十分に開示され、ガラス張りにされる例はまれだ。

そのため「新築のタワマンは築後15年で売りなさい」ということの根拠になる。とくに中古のタワマンを購入する際は、大規模修繕がいつ行われるかチェック項目の最上位にしておきたい。

最近でこそ、修繕の必要性やその財政も含めてマンションが格付けされる動きが出てきたが、進んで格付けされている物件はそれこそ「自信」のある物件ともいえ、それだけで優良物件といえるのかもしれない。

これからのマンション購入では、業者の言いなりならず、こうした細かい点は自らがチェックする必要がある。

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この記事を書いた人

浅野夏紀

浅野夏紀経済アナリスト・作家・不動産小説家。

1963年生まれ。東京都心在住。オフィス・ホテル・商業施設・公有地・借地等の不動産の分析、株など資産市場の分析に詳しい。住宅業界のカリスマ事業家が主人公で、創業者まで徹底的に切り捨てる政権の歴史的な不良債権処理の暗闘局面などを明かした『創業者追放~あるベンチャー経営者の風雲録』などの作品がある。

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