不動産など資本市場の分析と世代会計、文化財保護に高い関心持ち、執筆活動を行っている。『不動産絶望未来』『2030年不動産の未来と最高の選び方・買い方を全部1冊にまとめてみた』(いずれも東洋経済新報社)などペンネーム・共著含め著書多数。
(著者連絡先)windomaezaki@yahoo.co.jp
AIやオンライン化が進む一方、不動産業界ではDXが本質的な変革に至っていない。検索で得られる条件と、住まい手が本当に知りたい生活情報との乖離はなぜ生まれるのか、その構造的背景とは
山下努2026/01/07

われわれの日常生活は、驚くほどのスピードでIT化が進んでいる。AIが文章を生成し、画像解析や病気の予測まで担う時代だ。一方で、この技術革新の波から取り残されてきた業界の一つが不動産業界である。
もっとも、不動産分野でも変化がなかったわけではない。電子契約の普及により、紙の契約書や印紙税、郵送・移動のコストは削減され、コロナ禍以降はVR内見やオンライン接客も広がった。遠隔地や海外顧客への対応力は、表面的には向上したように見える。
しかし、住宅の売買・賃貸を担う仲介の現場に目を向けると、状況は大きく異なる。収益性の高い業界でありながら、中小事業者ではコストや人材不足を理由にDX導入が進まず、大手との格差は広がっている。スマートフォン一つで多くのサービスが完結する時代であっても、物件探しにおいてユーザーが「本当に知りたい情報」は、いまだ十分に提供されていない。
賃貸・売買の検索サイトでは、「駅から徒歩〇分」「築年数」「間取り」「価格」といった条件では簡単に絞り込める。だが、実際に住まいを探した経験がある方であれば、わかると思うが、本当に知りたいのは、数字や記号ではない。窓からどんな景色が見えるのか。日差しはいつ入るのか。夜は静かなのか。坂道はきつくないかといった、生活の質を左右する情報で、今の検索サイトでは、そこが欠けている。
定年後の移住を想定し、「砂浜まで歩いて行ける海の見える賃貸物件」を条件に探してみると、その現実が浮かび上がる。
条件が細かく、かつ収入の高い属性と見なされない顧客ほど、店頭での対応は後回しになりがちだ。ようやく内見にこぎつけても、人気物件は「すぐに正式契約しなければなくなる」と急かされる。結果として、多くの人が実物を見る前に、ネット上の限られた情報だけで判断せざるを得なくなる。
不動産仲介は、「内見して契約してもらう」ことで利益が出るビジネスモデルといえるだろう。物件情報は業者間ネットワークで集約され、詳細データの多くは仲介会社に委ねられてきた。そのため、顧客視点で情報を整理・蓄積する発想が育ちにくかった。
この記事を書いた人
山下努経済アナリスト
不動産など資本市場の分析と世代会計、文化財保護に高い関心持ち、執筆活動を行っている。『不動産絶望未来』『2030年不動産の未来と最高の選び方・買い方を全部1冊にまとめてみた』(いずれも東洋経済新報社)などペンネーム・共著含め著書多数。
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