【破綻 介護事業】超高齢時代に過去最多600件あまりが事業撤退

超高齢社会の日本。そんななかにあって介護施設の破綻が増えているという。その背景に潜むものとは何だったのか。

立川昭吾2024/08/19

上がる経費、上げられない介護報酬

その要因は、やはり急激な物価上昇にあります。
とくに高齢者の介護には欠かせないものが冷暖房 や入浴サービスで、ウクライナ戦争と中東情勢による原油やLNGの高騰に加え、円安が重なり光熱費の負担が重くなっています。また、ご存知のようにこの介護は超人手不足にあり、これも大きな要因です。

しかし、介護報酬は決められているため、こうした経費負担、人材確保のための費用負担が増えたからといって、簡単には値上げはできません。つまり、増加した費用はすべてそれぞれの各事業所が自ら負担しなくてはならず、これが経営を厳しくしています。
私も九州で介護事業者の事業再生の依頼を受けて携わり、事業者の決算書などの確認をしました。それを見ると、諸経費はすべて上がり支出は増えているのに、値上げができない。サービス料を値上げしようにも、交渉は介護を受ける本人ではなく、その家族などになるため、いくら説明してもなかなか納得が得られないのです。

一方、訪問介護の事業者も厳しい状況にもあります。商工リサーチによるとこの訪問介護の事業者の倒産は67件で、これも過去最高の倒産件数になりました。

介護が必要になると、だいたいは訪問介護から始まるわけですが、訪問介護の事業者というのは小規模なところが多い。これは介護事業全体にいえることですが、従業員数20人未満の事業者が約3割、100人未満が約7割と、中小事業者が多数を占めています。
一方で、損保ジャパンや、最近でも日本生命が介護最大手のニチイHDを買収するなど大資本をバックにした大手の事業もあり、これらとの競争も激しく、これも倒産率を高くする要因です。

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立川昭吾

立川昭吾

1945年新潟生まれ。
中央大学商学部卒業後、東京重機工業株式会社(現株式会社ジューキ)入社。退社後は、企業の倒産現場に数多く立会い、企業の倒産回避のノウハウをマスター。1995年設立のTSKプランニングで、コンサルタントとして経営危機に直面した企業の倒産回避および事業再生に関するコンサルティングを手掛けている。
著書に『隣の会社「なぜ?」潰れないのか』『脱常識のしたたか社長論。』『日本が潰してはいけない会社』など多数。

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