大学卒業後、メーカーを経て広告代理店にてPR・広報のコンサルとしてと企業支援に従事。ところが新型コロナと50歳の節目が重なり、「このまま真面目に働いていていいのか?」と自問自答。一念発起し脱サラして、FIREを目指してスイングトレーダーに転身。現実はまだ“たき火レベル”だが、日々発表される決算書とチャートの動向と格闘している。最近ではAIを駆使し、銘柄研究を行っている。
日東紡績は、営業利益が84.8%増えて17.92%下げた
8月5日、日東紡績(3110)が第1四半期決算を発表した。営業利益79億円。前年同期の43億円から84.8%増えている。
決算ウォッチはこの日の朝、同社を要注意D級として、「営業利益が60億円前後に乗るかどうかが1つの目安になる」とした。決算発表では営業利益が79億円で、目安とした60億円を3割上回った。
ところが翌8月6日、株価は17.92%下げた。3555円から2918円である。出来高は20日平均の3.27倍に膨らんだ。
決算は見立て通りだった。株価は逆に振れた。
この検証は、毎日の連載で取り上げている3銘柄の株価がどう動いたかを確かめ、指摘した内容と株価の動きが連動しているかを確認する。いわば、記事の“品質管理”である。見立て通りか、外れたかを確認し、外れた理由を探り分析の精度を高めていきたいと思っている。
初回は8月3日から6日までに取り上げた12銘柄が対象。決算発表の前に「ここを見る」で指摘した数字が合っていたか、合っていた場合に株価はどう動いたか。この2つを分けて確かめていく。
10銘柄中8銘柄で、数字の読み通りの結果に
まず、発表前に示した基準がどれだけ読み通りの結果になったかを見ていきたい。基準は各銘柄の記事の「1Qで見る数字」で、判定は指摘したとおりの結果になったかを機械的に確認したのが以下の表の内容だ。
| 銘柄 | 枠 | 発表前に書いた基準 | 実際 | 判定 |
| 三菱UFJ(8306) | ☆S級 | 純利益が前1Q5460億円超 | 8094億円 | ○ |
| 日産自動車(7201) | ◎A級 | 営業損益が前1Q791億円の赤字から縮小 | 779億円の黒字 | ○ |
| 三井E&S(7003) | ★D級 | 営業益75億円前後なら計画どおり | 102億円 | × |
| トヨタ自動車(7203) | ☆S級 | 営業益が前1Q1兆1661億円に対しどうか | 1兆634億円 | △ |
| 三菱重工業(7011) | ◎A級 | 事業利益が1041億円を上回るか | 判定不能 | ― |
| イビデン(4062) | ★D級 | 営業益が前1Q176億円に対しどうか | 269億円 | ○ |
| ローム(6963) | ☆S級 | 営業益が前1Q1億9500万円をどれだけ上回るか | 96億円 | ○ |
| スズキ(7269) | ◎A級 | 営業益が1421億円に乗るか | 1580億円 | ○ |
| 日東紡績(3110) | ★D級 | 営業益が60億円前後に乗るか | 79億円 | ○ |
| ソフトバンクG(9984) | ☆S級 | 純利益が前1Q4218億円に対しどうか | 3473億円 | × |
| 任天堂(7974) | ◎A級 | 営業益が570億円前後・利益率が戻るか | 1426億円・27.5% | ○ |
| SUMCO(3436) | ★D級 | 2Q単独の営業赤字が24億3000万円以内か | 約11億円の赤字 | ○ |
判定できた10銘柄のうち8銘柄が○だ。外したのは三井E&Sとソフトバンクグループの2つになる。
三菱重工業はIFRSの事業利益で基準を立てたが、この指標はJ-Quantsに収録されておらず、機械的な照合ができないので除外した。
トヨタが△になっているのは、営業利益1兆634億円は前年同期比8.8%減で、減益という方向は想定内だったものの、会社の通期計画が3兆円から3兆4000億円へ上振れした。記事ではこの点に触れていなかったため、想定通りとも外したとも言えないので△としている。
想定通りの8銘柄のうち、5銘柄は株価が下落
問題は判定と株価の反応の相関関係だ。
| 銘柄 | 判定 | 初動 | 出来高倍率 |
| イビデン(4062) | ○ | 24.49%高 | 1.16倍 |
| 日東紡績(3110) | ○ | 17.92%安 | 3.27倍 |
| 三井E&S(7003) | × | 9.10%安 | 4.49倍 |
| 三菱重工業(7011) | ― | 7.69%高 | 3.33倍 |
| 任天堂(7974) | ○ | 5.26%高 | 1.81倍 |
| ローム(6963) | ○ | 3.14%安 | 1.07倍 |
| 三菱UFJ(8306) | ○ | 2.72%安 | 1.00倍 |
| ソフトバンクG(9984) | × | 2.51%安 | 0.72倍 |
| SUMCO(3436) | ○ | 2.09%安 | 1.10倍 |
| トヨタ自動車(7203) | △ | 1.52%安 | 1.60倍 |
| スズキ(7269) | ○ | 1.16%高 | 2.03倍 |
| 日産自動車(7201) | ○ | 0.86%安 | 1.18倍 |
基準を満たした8銘柄のうち、株価が上がったのは3銘柄。下がったのが5銘柄だ。決算の数字が予想通りでも、株価は半分以上が逆を向いた。
具体的にはローム、三菱UFJ、SUMCO、日産はいずれも基準を満たしたものの、株価は下げている。ロームは前年同期の2億円から96億円へ、およそ49倍の営業利益を出していながら3.14%安となった。
株価が上がりきった銘柄は、決算が良くても上がらない
こうした結果になった理由は発表前の株価を見るとその理由が見えてくる。日東紡績は8月4日終値3170円から、発表当日の5日に3555円まで12.15%上昇。つまり、決算が出る前に上げ切っていた。要は株価が決算内容を「織り込み済み」だったということだ。これはロームも同様だ。
もちろん、記事でも以下のように
「3営業日では16.29%高と、決算発表の前にすでに大きく上げている。上げてきた地点での発表は、良い数字が出ても「織り込み済み」で下げる形になりやすい」
と指摘している。
一方、8月4日に取り上げたイビデンは、発表前日の8月3日に6.70%下げており、そこへ営業利益269億円、前年同期比52.4%増が出て24.49%高。通期計画も900億円から1270億円へ上振れていたため、素直に株価は上昇した。
当たり前のことだが、株価が動くのは good か bad かではなく、市場の期待との差。良い意味でも悪い意味でも市場の予想と違う動きをしたときなのだ。
外した2銘柄のことから、学ぶべき点
○×でいえば、外したのは三井E&Sとソフトバンクグループだった。
三井E&Sには「営業益が75億円前後なら計画どおり」と記事には記した。会社が前期の376億円から今期320億円へ減益計画を出していたので、それを織り込んだ基準である。実際に出たのは102億円で、前年同期比14.4%増だった。減益計画を前提にした基準そのものが低すぎたことになる。
ところが株価は9.10%安、出来高は4.49倍に膨らんだ。増益で、基準も上回って、大きく売られている。
この銘柄は8月3日14時30分の開示で、場中に数字が出た。発表前の1か月で15.6%上げていたことは記事でも指摘している。上げ切った株が場中に決算を出せば、材料出尽くしの売りがその日のうちに出るのは当然のこと。基準を外したことより、上げ幅を軽く見ていたことのほうが問題だった。
ソフトバンクグループは純利益3473億円で、前1Qの4218億円を17.7%下回った。この会社は保有株の時価評価で利益が振れるため、記事では「前1Qの4218億円という実額との比較になる」とし、増減の方向を示すことはしなかった。結果、株価は2.51%安、出来高は0.72倍と平均を下回っており、市場も反応していない。
決算を読む意味は、どこにあるのか
ここまでの数字だけを見れば、決算を読んでも株価の動きまでは読めない、という話になってしまうだろう。
ただ、基準を満たさなかった2銘柄は、どちらも株価が下げており、上げたものは1つもない。「数字が基準に届かなければ下げる。届いても上がるとは限らない」ということ。決算を読むことの本質は、上がる株を探すためではなく、下げる株を避けるために効いているといえるだろう。
「損小利大」という考え方からすれば、これは悪い結果とはいえまい。私が著書『10万円を1年で100万円にする株式投資術』で強調した1つに、「決算は地雷を避けるための守りの作業」ということと合致している。
もう1つ、出来高についても触れておこう。大きく動いた4銘柄のうち3銘柄は出来高が3倍を超えている。日東紡績3.27倍、三井E&S4.49倍、三菱重工3.33倍だ。一方でローム1.07倍、三菱UFJ1.00倍のように出来高が動かなかった銘柄は、値幅も3%以内に収まっている。これも当たり前だが、数字の中身より、市場がその数字にどれだけ反応したかによって株価は反応するということの証左といえよう。
決算を見る前に、株価を見る
今回の12銘柄の検証から学ぶべき点は、1つに絞れる。
「決算短信を開く前に、その銘柄が直近20営業日でどれだけ動いたかを見ておくこと」である。
日東紡績は発表当日に12.15%、ロームは3営業日で16.29%上げていた。どちらも良い数字を出して下げている。逆にイビデンは発表前日に6.70%下げ、そこへ増益が出て24.49%高になった。同じ「増益」でも、株価がどこにいるかで結果が反対になる。
上げ切った銘柄の決算は、良い数字が出ても買う人が残っていない。この判断に決算短信は要らない。株価チャートを1枚見れば済む。
これを踏まえると、短信で見るところが変わってくる。上げ切った銘柄なら「計画を上方修正したか」まで確認したい。すでに織り込まれた増益では足りず、市場の期待を超える材料が要るからだ。逆に下げてきた銘柄であれば、基準を満たすかどうかだけで十分に効く。
もう1つ、決算をまたいで持つ理由は今回も見つからなかった。12銘柄のうち、発表の翌日に5%以上動いたのは4銘柄あった。その方向は上に2つ、下に2つで、事前に読み分けることはできなかった。結果と反応を見てから動いても、24.49%高のイビデンは翌日以降も買えた。またいで取れるのは、その日の値幅だけだ。
来週は8月7日と、8月10日から12日の発表分を検証する。7日は今シーズン最多の680社が発表した日で、リクルートホールディングス、オリンパス、ハーモニック・ドライブ・システムズを取り上げている。この3社は反応日が週明けになるため、次回に回した。
なお次回からは、各銘柄の基準に「発表前20営業日の騰落率」を必ず添える。数字の良し悪しと、株価がどこにいるか。この2つを並べて精度の高い情報を提供していきたい。
※本記事の決算数値は、JPX公式のJ-Quants APIが配信する各社の決算短信開示値による。株価・出来高は同APIの分割調整後の値にもとづく。初動は各社の開示時刻を確認し、15時以降の開示は翌営業日、場中の開示は当日を反応日として、前営業日終値との比較で算出した。出来高倍率は反応日の出来高を直前20営業日の平均で割ったもの。判定は各記事に記載した基準を満たしたか否かのみで機械的に付けており、当社が独自に集計したものである。取引所等が公表する指標ではない。
※本稿は、投資における情報提供を目的としたもので、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。株式の売買は自己の責任において、ご自身の判断で行うようお願いします。
コマンドY/スイングトレーダー
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