1948年広島県生まれ。住宅をめぐるトラブル解決を図るNPO法人日本住宅性能検査協会を2004年に設立。サブリース契約、敷金・保証金など契約問題や被害者団体からの相談を受け、関係官庁や関連企業との交渉、話し合いなどを行っている。
そもそも「礼金」とは何か?
賃貸住宅を借りる際、「礼金が高くて払いたくない」と感じた経験のある人も多いだろう。家賃や敷金、仲介手数料に加えて、戻ってこない礼金まで加わると、入居時の初期費用は相当な負担になる。
では、この礼金、そもそも払わなければならない義務はあるのだろうか。
実は、礼金には法律上の明確な定義や規定は存在しない。あくまで慣習的なものであり、「家主に対する謝礼」として、契約時に支払われる一時金である。法律では特に決められていない以上、必ずしも支払う必要があるわけではない。
しかし現実には、「払いたくない」と伝えたからといって、それで済む話でもない。というのも、貸主には「誰と契約するかを選ぶ自由」があるため、礼金の支払いを拒めば、「では契約しません」と断られてしまう可能性が高いからだ。
退去するときに「礼金」はもどってこない
借主には物件を選ぶ自由があるのと同様、貸主にも借主を選ぶ権利がある。契約は、双方の合意があって初めて成立する。どちらか一方が納得しなければ、契約は成り立たない。そのため、「高いから払いたくない」と主張しても、貸主が受け入れなければ、結局その物件には住めないということになる。ただ、交渉は可能なので相談してみるのも1つの方法だろう。
また、一度支払った礼金を後から返してもらえるのかという点についても注意が必要だ。判例上、礼金は「返還不要の一時金」とされており、法的には贈与に近い性質を持つ。つまり、「契約を結ぶにあたり、借主から貸主へ支払う謝礼金」とみなされているため、原則として返してもらうことはできない。
では、礼金が高いと感じたとき、借主としてどう行動すべきか。無理に交渉を試みるよりも、最初から「礼金ゼロ」や「礼金1か月以内」の物件を探す方が現実的だろう。近年では、初期費用を抑えた物件も増えてきており、交渉に時間をかけるよりも、条件に合った別の物件を見つけた方がスムーズに契約が進む。
結論として、礼金は法律で義務づけられたものではないが、借主の意志だけで避けられるものでもないというのが現実だ。納得のいかない条件で無理に契約する必要はない。自分にとって適切な物件を見極め、選び直すことも、賢い選択といえるだろう。