【不動産賃貸トラブル:手付金】契約直後でも解約できない?よくある誤解と法的ルール

契約書に署名し手付金を支払った直後であってもキャンセルできない――知らないと大損してしまう。そんな不動産契約の落とし穴と法的な仕組みを解説。

大谷昭二2025/07/15

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【不動産賃貸トラブル:手付金】契約直後でも解約できない?よくある誤解と法的ルール
  • 契約書にサインした時点で契約は成立。たった1時間後でもキャンセルはできない
  • 手付金にあるきちんとした法律的根拠あるのでもどらない

たった1時間、されど1時間

不動産契約の現場では、さまざまな疑問やトラブルが起きることがある。そんな中でありがちなことが、ちょっとした些細なことで、「このくらいは……」と思えるようことでもどうにもならないことがある。

ある購入希望者は、希望する物件を紹介され、手付金を支払い、契約書に署名捺印を行った。しかし、そのわずか1時間後、より好条件の物件を見つけ、急いで先に契約を結んだ業者へ解約を申し出た。ところが、業者から返ってきた言葉は「手付金は返還できません」というものだった。

契約当事者からすれば、「たった1時間」で状況が変わったのだから、柔軟に対応してもらいたいという思いもあるだろう。しかし、不動産契約における「契約成立」は、時間の長短とは無関係。
契約書に家主と借主(あるいは買主)双方の署名捺印がある場合、それは正式な契約が成立したことを意味する。家主の署名が記載されているということは、仲介業者が契約を代理して締結する「代理権」を有していたとみなされるため、法的には有効な契約となる。

このような場合、契約後に一方的に解約を申し出ても、「手付解除」の扱いとなり、手付金を放棄することでのみ解約が可能となる。つまり、「解約できるが、手付金は戻ってこない」というのが原則だ。

例外的に、家主や仲介業者からの説明に虚偽があったり、重要な情報が故意に隠されていたようなケースでは、手付金の返還が認められる可能性もある。たとえば、建物に重大な瑕疵があったことを故意に説明しなかった場合や、広告内容と実際の条件に大きな乖離があるような場合には、契約そのものが無効または取り消し対象となる可能性が出てくる。

だが、今回のように「後からもっと良い物件を見つけた」という事情は、あくまで契約者側の都合であり、法的に正当な解約理由とは認められない。手付金は契約成立の証でもあり、また、万が一の際のペナルティとして機能する性質のものなのだ。

不動産取引は高額かつ複雑であるからこそ、契約時には慎重な判断が求められる。
これを防ぐには焦って決断することなく、複数の物件を比較・検討したうえで契約に臨むことが必要だ。また、手付金の意味や契約解除の条件についても、事前に十分な説明を受け、理解しておきたい。

「たった1時間だったのに……」という後悔をしないためにも、契約は「時間」よりも「内容」で判断すべきことだろう。手付金を支払うという行為が、単なる予約金ではなく、法的な拘束力を持つ契約の一部であることを忘れてはならない。

この記事を書いた人

大谷昭二

大谷昭二NPO法人日本住宅性能検査協会理事長/一般社団法人空き家流通促進機構会長/元仲裁ADR法学会理事

1948年広島県生まれ。住宅をめぐるトラブル解決を図るNPO法人日本住宅性能検査協会を2004年に設立。サブリース契約、敷金・保証金など契約問題や被害者団体からの相談を受け、関係官庁や関連企業との交渉、話し合いなどを行っている。

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