【倒産続出 土木・建設業界】日本経済復活のカギを握る土木・建設業の現状

コロナ禍が収束しつつある2022年春、本来であれば日本全体の景気回復に先行するはずの土木・建築業に倒産の臭いが漂い始めていた。そして、それが現実のものに……。土木・建築業が倒産の危機に陥った要因と復活の処方箋。

立川昭吾2024/04/12

大型の公共工事が行われているが……

大盤振る舞いの公共工事応札に躊躇する土木・建築会社

歴史を振り返ると、1914(大正3)年に第一次世界大戦が勃発、日本は大戦景気に沸きましたが、1918(大正7)年~21(大正10)年にスペイン風邪が大流行し、時を同じく大戦不況に陥ります。その後1923年(大正11)年に関東大震災に見舞われ国内は大混乱になっていました。しかし、逆にこのことがこれまでの国内経済のあり方や考え方を全部変えました。
このスペイン風邪のようなパンデミックによる社会の大混乱のあとは地震や災害が起き、社会が大きく変化する可能性があり、これからの日本においても何かあるのではないかと危惧しています。

実際、今般のコロナ禍でもテレワークの導入やAIの進化など社会構造が変化しています。しかも、年明け元旦に能登半島大地震が起こり、ここ数年、異常気象による水害も全国で頻発しています。こうした状況下で復興工事など大事な役割をするのが、建設・土木業なのです。
国もコロナ禍によって疲弊した経済の立て直しのために、土木・建設予算を急増させています。すでに60兆円から90兆円もの公共投資事業が始まっています。大阪万博、IR総合リゾート計画、リニア新幹線や、老朽化したインフラの工事のための国土強靭化法を作り土木・建設にものすごい予算が組まれています。
ところが、過去に行われた公共事業による景気浮揚と比較すると現状は少しおかしくなっています。
これまでは公共工事が増加すると、民間も工場建設などの設備投資が増加し日本中で好景気になったのですが、公共工事を受注しない土木・建設会社がいっぱい出てきています。
その背景には公共工事で出されている予算と実際の工事金額が乖離しているということがあるからです。また、建設資材が急騰しているため工事途中で資材価格が上がる可能性もあって土木・建設会社からすると、怖くて公共工事が受けられないという側面があるからです。
公共工事は、工事の途中で費用が多くかかってしまう場合は、見直しをする制度も一部にはあるのですが、昨今の資材費に高騰を目の当たりすると、それでも手が出せないというのです。予算の増額が認められないという点では、民間工場の工事はさらにきつくなります。
そういうこともあって実は土木・建設会社が仕事の受注を躊躇し、公共事業予算が宙に浮いて景気浮揚策になっていないのです。

儲からなくなった公共工事

そもそも公共事業は、国内にお金を回すことを目的としています。ですから、コロナ禍でやらなかった、あるいはできなかった仕事がコロナ明けに一斉に動きだしてくる。結果、お金が世の中に回り始めて好景気になるわけです。
しかし、商工リサーチによると、2023年(1-12月)の建設業の倒産件数は、1693件(前年比41.7%増)で、2年連続で前年を上回っています。さらに細かく分類すると、建築工事業が254件(前年比30.2%増)、次いで、土木工事業216件(同26.3%増)と建設・土木会社の倒産が増えてきています。

理由は前に指摘したようにウッドショックに始まり、資材・資源の高騰がその理由でしたが、これがだんだんと人手不足、工賃が合わないという理由に変わってきています。
内装工事についても23年は136件(商工リサーチの調べ)になっています。
23年3月時点ですが、私どもが調べた結果では、建設土木業の売上高が平均26%減、有利子負債が平均で6倍になっており、この業界のバランスシート上もきついということが、見えてきました。

さらにこれまでと公共事業の出し方が大きく変化しています。
具体的には公共事業、積算方法が昔と大きく違ってきているのです。

公共事業を受注するための競争入札に参加する際には「経営事項審査(経審)」という建設会社の資格審査を受けなくてはなりません。
この経審の方法が昔と比べ厳しくなってきています。もちろん、建設会社が集まって談合はできませんから価格の調整はできません。
経審が厳しくなって応札企業が絞られたうえ、入札金額を高くすれば受注できず、低くすれば会社の経営が厳しくなる。つまり、公共事業が美味しい仕事とはいえなくなっています。その一方で、公共事業の受注が減ると、土木・建設業全体の破綻懸念の材料になるというジレンマもあります。

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この記事を書いた人

立川昭吾

立川昭吾

1945年新潟生まれ。
中央大学商学部卒業後、東京重機工業株式会社(現株式会社ジューキ)入社。退社後は、企業の倒産現場に数多く立会い、企業の倒産回避のノウハウをマスター。1995年設立のTSKプランニングで、コンサルタントとして経営危機に直面した企業の倒産回避および事業再生に関するコンサルティングを手掛けている。
著書に『隣の会社「なぜ?」潰れないのか』『脱常識のしたたか社長論。』『日本が潰してはいけない会社』など多数。

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